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デジタル家電など製造拠点の日本回帰が明瞭に 「中国へ全部渡さない戦略」へ動く


Yamanoi Norio

  製造拠点の「国内回帰」の動きが、競争力のある最先端製品、とりわけデジタル家電といわれる分野で、はっきりしてきた。 価格どころか「ものづくり」の技術でも、中国や韓国、台湾に負け始めているのではないか。そんな「空洞化」への危機感が、新たな動きを日本メーカーに呼び起こし始めた。

部品国内製造の動きが加速

  富士写真フイルムは液晶ディスプレイ部品の新工場を国内に建設する。投資金額は1千億円以上で、液晶関連の部品生産への投資としては最大級となる。2006年以降の操業開始を目指す。また、シャープは最先端の液晶パネル工場を三重県亀山市で04年1月から稼働させている。松下電器産業がプラズマ・ディスプレー・パネル工場を兵庫県尼崎市に建設することを決めている。いずれも、製品の進歩が速い最先端製品であるため、研究施設に近い製造拠点が望ましいこと。さらに、人件費があまりかからない自動化が進んだ部門であることなどから、国内で製造する方が有利と判断した。

 1980年代まで、日本は家電の王国だった。ビデオテープレコーダー(VTR)や、ビデオカメラ(カムコーダー)を量産し、全世界に輸出して外貨を稼いだ。その構造が崩れたのは1990年代だ。円高の進行は、日本の家電から価格競争力を奪い、競争力の低い製品は、人件費の安い中国や東南アジアへの製造移転が進んだ。こうした海外への工場シフトは、コスト低減には効果があった。しかし日本の工場で学んだ現地の技術者が新たな家電メーカーを立ち上げ、日本のライバルに成長することまでは見通せなかった。今でも、日本には松下電器産業やソニーという世界最大級の家電メーカーがある。しかしアジアや中国との競争の中で、かつてのような利益は出せていないのが実情だ。

  こうした状況が、再び一変しようとしている。それが「デジタル家電」の大ブームである。ブームとはいうが、これは決して一過性のものではない。白黒テレビがカラーになり、レコードがコンパクトディスク(CD)に替わったような変化が起きているのだ。日本のメーカーは、そのメインプレーヤーとして国際競争力を回復しつつある。

ストレージ技術で先行する

  デジタル家電には、大きく3つの分野がある。そして、それぞれの分野で日本メーカーが技術を握っていることが注目される。
第一は、ディスプレイ技術。テレビやパソコンのブラウン管が、薄型で軽量の液晶表示装置(LCD)やプラズマ・ディスブレイ・パネル(PDP)に置き換わりつつある。このうち液晶では、日本勢は韓国や台湾メーカーに押されている。しかし韓国や台湾でも、LCD製造装置の大半が日本製だという事実を忘れてはならない。またPDPは世界シェアの90%以上を日本が押さえている。さらに、ポスト液晶と言われる技術に有機発光素子(有機EL)がある。有機ELの技術そのものはコダックが中心となって開発したが、量産に成功したのは日本勢だけである。
第二は、ストレージ技術。VTRに代わって、光ディスク記録装置を使ったDVDレコーダー、固定磁気ディスク装置(HDD)を使ったHDDレコーダーが急成長している。DVDは基礎技術の開発から規格策定まで、すべてを日本がリードした。またHDDでも、日立製作所がIBMのHDD部門を買収するなど、日本勢の活躍が目立っている。このほかデジタルカメラも、こうしたストレージ技術との関連が深い。
第三は、デジタル通信技術。日本は、デジタル放送、第三世代携帯電話、ADSLという新世代通信技術を実用化している世界で唯一の国である。このためデジタルチューナーや高速通信型の携帯電話、ADSLモデムなどは世界で最も安く、品質も高い。

基幹部品は国内、組み立ては中国

  かつて日本が家電王国として世界に君臨した背景は量産技術だった。しかし今では性能で中国製に並ばれ、価格では日本が圧倒的に不利である。そこで、日本メーカーが量産技術に代わるものとして開発してきたのが、これらのデジタル技術なのである。ブラウン管が薄型ディスプレイになり、VTRがディスクに代わり、通信が高速化することは十数年前から予想されてきた。日本メーカーの努力によって、これらの次世代技術がようやく、消費者に手の届く価格で実用化された。その結果として「デジタル家電ブーム」が起きているとも言える。しかもデジタル家電は、かつての家電とは異なって簡単に海外メーカーにとって代わられることはない。たとえば中国メーカーもDVDプレーヤーを量産している。しかし基幹部品の多くは日本から輸入しなければ組み立てられない。必ず日本に一定の利益をもたらす仕組みなのである。デジタル家電は短期のブームに終わるものではなく、長期的に景気をリードするという見通しの根拠は、ここにある。
日本の家電メーカーの今後の基本戦略は、基幹部品を日本で生産し、量産組み立てを中国で行うことにある。その先鞭をつけたのが、キヤノンである。キヤノンはコピー機などの事務機器の量産工場をいち早く中国に移したことで利益確保に成功した。基幹部品は国内で生産するか、他メーカーから調達している。この戦略をさらに進め、基幹部品の内製化比率を高める。キヤノン同様、国内工場を基幹部品に集中するケースはいくつもある。これは、「中国に勝つ」のではなく、「中国に全部を渡さない」ための戦略のひとつである。

  ただ、最近はそこから一歩踏む出し、「モノつくり」技術の維持という色彩が強まっている。 国内ならば、開発と一体の生産ができ、重要部品や設備を自社で作る「内製化」もしやすい。国内外に分散した生産現場を集中させる効率化も可能だ。逆に言うと、デジタル家電という製品でさえ、製造を海外頼みにすると、肝心の開発競争力も失われかねない、という考えが出てきたからだ。国内回帰の動きから、今後の日本のモノ作り現場の方向性が見えてくる。