携帯電話をかざすだけでクレジットカードのように支払いができる「携帯クレジット」。このサービスに、三井住友カードが2005年12月から参入した。先行するJCB、UFJニコスに対し、三井住友カードは携帯電話市場で60%近いシェアをもつNTTドコモと独占的に提携し、一気に先行2社を突き放す構えだ。
ドコモは店舗端末の開発・普及に500億円を投じ、3年間で1,000万人の会員獲得を目指す。資金力に物を言わすドコモの出方次第で、カード業界自体の勢力図が一変しそうだ。
携帯クレジットは、非接触ICチップを内蔵した決済機能付き携帯電話による、いわゆる「お財布ケータイ」のサービス。決済後にクレジットカードから代金を支払う"ポストペイ方式"が特長だ。従来も「Edy」や「Suica」など"プリペイド方式"の電子マネーを用いたサービスはあったが、携帯クレジットは事前にチャージ(入金)する煩わしさがなく、クレジットカードと合算してポイントがつくうえ、キャッシングもできる。このため、お財布ケータイの本命と見られている。
カード最大手、JCBは05年4月から「クイックペイ」の名称でサービスを開始し、1万人の利用者を獲得した。同3位のUFJニコスも05年8月末から「スマートプラス」を本格化させており、いずれも1,000円札や硬貨で支払う少額決済市場での顧客囲い込みを狙っている。少額決済の市場規模は年間60兆円。その巨大市場を開拓する決済機能付き携帯電話も700万台が普及しているが、大半を占めるのはドコモの加入者だ。
業界2位の三井住友カードは、そのドコモと「iD」のブランドでサービスを開始した。既にヨドバシカメラ、am/pm、TSUTAYA、タワーレコード、三越などの約3,000店舗で利用できる。利用店舗に置く専用読み取り端末は、ドコモが兄弟会社のNTTデータと開発したもので、その普及に多額の販促費を投下する計画だ。
「三井住友がドコモの資金力をテコに店舗端末の無料導入を始め、しかも、ドコモのお財布ケータイを唯一使えるサービスであることを謳い文句にされれば、会員店舗は軒並みひっくりかえされてしまう」
このように、JCBとUFJニコスの危機感は強い。実際、両社は05年10月、関連39社で構成される「モバイル決済推進協議会」を発足させ、店舗端末の共用化に乗り出した。これにはドコモに対抗するKDDI、ボーダフォンも参加しており、3サービス別々の規格を統合することによって結束を図る狙いがある。同協議会は三井住友カード、ドコモにも参加を求めているが、今のところ、両社は静観の構え。
しかし、3サービス鼎立(ていりつ)状態に波紋を与える事態が起きつつある。民営化が決まった日本郵政公社が通販市場での主導権獲得を目指し、3サービスに加え、電子マネーの「Edy」「Suica」を含めた規格の統合に動き出したからだ。全国2万5,000件の郵便局に設置される、この統合端末が業界標準となることは間違いない。それにどの規格が採用されるかで、携帯クレジットをめぐるカード会社の勢力争い、さらに携帯電話事業者の消長も決まりそうだ。