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セブン&アイ 中国成功の秘密

   中国での規制緩和の流れに乗り、日系小売業の進出が加速している。しかし、地元勢との価格競争が厳しく、収益面では苦しむところが多い。そうした中で、セブン&アイ・グループは、スーパーが2004年に黒字化を達成するなど、着実に実績をあげている。その秘密は何か。

中国では、セブン&アイグループが着実に実績をあげる(写真: 食品スーパー・王府井ヨーカ堂)
中国では、セブン&アイグループが着実に実績をあげる(写真: 食品スーパー・王府井ヨーカ堂)

   中国では、卸・小売とも外国企業による100%子会社設立はもとより、合弁の設立も禁止されていた。だが、経済の改革開放が進むにつれ、社会主義的流通システムの弊害が明らかになって、中国政府は1992年に全国の11都市で中外合弁による小売企業出店を認可し、中国への外資小売業進出が始まった。
   この時期を象徴するプロジェクトは、ヤオハンが95年に上海・浦東地区に開店した巨大店舗「ネクステージ上海」だ。グループ本部を上海に移転し、中国にスーパー1,000店を開業する計画をたてて事業拡大を推進した。だが、国内では東海地方を地盤とする中堅スーパーに過ぎなかった同社にとって、その投資はあまりに過大だった。97年にグループの母体であるヤオハンジャパンは事実上倒産、店舗などは中国企業に買い取られた。

性急だったヤオハンとは対照的に着実に進める

   あまりにも性急だったヤオハンとは対照的に、着実に中国戦略を遂行してきたのがセブン&アイ・ホールディングスだ。総合スーパー部門であるイトーヨーカ堂は94年に、オランダのマクロと同時に、中国全土でのチェーン展開権を初めて認められた。イトーヨーカ堂は1996年に四川省の成都に第1号店を出店。翌年には北京の第1号店である十里堡店にも出店した。
   セブン&アイは日本で最も多額の利益をあげ、財務基盤もあつい小売業グループだ。にもかかわらず、中国での出店は慎重そのもの。北京での第2号店である亜運村店を出すまでに3年以上をかけた。まず、中国の消費者ニーズを把握し、ブランドへの信頼を高めることを優先した。04年に黒字化を達成したイトーヨーカ堂は、08年までに北京で10店を開業する考えだ。
   01年12月、中国のWTO加盟が正式に発効した。このとき、加盟後2年以内に地理的制限、出資規制を緩和し、3年以内には両者をともに撤廃することが決まった。また、フランチャイズについても3年以内にすべての制限撤廃が決まった。こうした規制緩和の流れに乗り、日系小売業の展開は加速している。
   フランチャイズの解禁をにらんで、日本のコンビニエンスストアは中国での大規模展開を準備中だ。ローソンが中国に進出した96年には、中国にはコンビニの影もかたちも見られなかった。だが、ローソン上陸をみて、見よう見まねで出店した地元勢の成長は爆発的だった。現在、上海でのコンビニ店舗数は4,000店を突破。ローソンに続き、04年にファミリーマートも進出したが、地元勢との価格競争が厳しく、両社とも収益面では苦戦が続いている。
   04年には北京へセブン&アイグループのコンビニであるセブン-イレブンも進出した。価格競争に引きずられるのは上海と同様だが、セブン-イレブンは「協賛金なし、リベートなし、返品なし」という、中国の商習慣と逆の方針を進めている。ほとんど粗利益がないような消耗戦を続けていても、中国の小売業が何とか成り立つのは納入業者からのリベートがあるからだ。日系を含めた外資系も例外ではない。カルフールなどは「フランスの革命記念日まで名目にして協賛金を要求する」と中国のマスコミにたたかれているほどだ。

06年内にフランチャイズ1号店を開業

ヨーカ堂十里堡店
ヨーカ堂十里堡店

   新品が出るごとに登録料が必要になるので、納入業者には新商品を出すインセンティブが薄い。これでは、絶えず新商品を投入し続けていく日本のコンビニ流の店舗運営ができない。中国の商習慣と真っ向からぶつかるだけに、セブン-イレブンの挑戦のハードルは高いが、コンビニの経営を中国に根付かせるには避けるわけには行かない。
   先行するローソンは06年までには上海で400店程度、2010年までには上海市内で1,000店、長江デルタで2,000店を展開する計画だ。それを追うファミリーマートは08年1,300店の計画をぶちあげている。セブン-イレブンは北京市内に08年に350店という計画を持っているが、それ以外の都市への進出も視野には入れている。年内にフランチャイズ1号店を開業し、出店を加速していく方針だ。
   上海華聯羅森に51%出資していたローソンは、04年にマジョリティをパートナーの百聯集団に引き渡した。今後の出店加速には現地化が不可欠との判断からだ。上海福満家の場合、最大株主である持ち株会社のマジョリティは台湾最大手の食品会社である頂新グループが握っている。
   セブン&アイは、資本戦略でも他社とのちがいを見せている。05年5月に総合スーパー事業を行う中国合弁の株式を提携先から取得、そのマジョリティを握った。これにより、同グループは自ら主導権を握って、中国事業を加速することが可能になった。現在、総合スーパー、食品スーパー、コンビニの3業態を中国で展開しているが、ウオルマートなど数量で勝る欧米勢に追いつくには、在庫管理などの流通システムを効率化することがかぎになる。その成否は、これまで海外には限定的な事業しかしてこなかった日本の小売業の将来を占うものとなる。