2024年 4月 20日 (土)

絶滅寸前のクマ 保護できない本当の理由

   クマの被害が全国各地で相次いでいる。青森県では目撃件数、「食害」とも2005年の5倍で、人的被害も既に昨年を2件上回る6件だ。クマはその場で銃殺されるか、捕まっても結局、殺される場合が多い。動物保護団体などはこれに反発、「クマを絶滅から救え」というキャンペーンをしている。クマを山に帰したり、動物園などで保護できればいいのだが、それもできない理由が行政や受け入れ側にあった。

   クマの出没は各地に広がっている。青森県では06年1月1日から8月24日までの目撃情報が昨年同期の5倍にあたる204件。トウモロコシやプラムなどが食い荒らされる食害が同5倍の32件。襲われたのが6人になっている。岩手県では人身被害が10人になり「ツキノワグマの出没に関する注意報」が06年6月に発令された。捕獲頭数は昨年の53頭に対し、現在ですでに40頭になっている。群馬県では人身被害が昨年1人に対し06年はもう2人。長野県では8月24日までに捕獲が17頭で昨年1年間の7頭を大きく上回った。飯田市松川町阿智村下条村喬木村など広範囲にわたり、山林に限らない出没になっているという。

帰したとしてもまた人里に下りてくる

クマを山に帰すのは難しい
クマを山に帰すのは難しい

   クマ被害の原因について青森県庁では、

「子連れで出没するケースが増えている。昨年、ブナの実やドングリなどが豊作で、例年以上に繁殖し個体数が増加したためではないか」

J-CASTニュースに答えた。岩手県庁では、

「今年はブナが育たないサイクルにあたるため、子連れクマが出没する可能性が高いという予測をしていた」と話した。

   クマの銃殺や捕殺に、動物保護団体などは異議を唱えている。ツキノワグマは絶滅の恐れがある地域個体群として環境省に指定されていて、「ツキノワグマの推定個体数が約1万頭、ヒグマが約2,000頭と少ないのに、狩猟と有害駆除は年間合わせ1千数百頭が殺されるのは多すぎる」などが理由になっている。

   クマが人里で暴れたり、捕獲したというニュースが流れると、県庁の自然環境課などに、「かわいそうだからクマを殺さないで」という電話が入ってくるという。捕獲した熊を生活している山に帰せればいいのだが、行政側にもそれができない事情があるようだ。

   ある県庁の職員は、帰せない理由を経費の問題、労力の問題や、帰したとしてもまた人里に下りてくる可能性の高さをあげたうえで、

「山の所有者にクマを返すと申し出ても、承諾が得られないのが普通なんです」

と答えた。

   かといって、動物園かクマ牧場などへの引取りも難しいのだ。群馬県沼田市では今年、小熊を1頭「沼田公園」に引き取ってもらった。しかし、これは稀なケースで多くの行政関係者は「していない」と答えた。理由は「近くに動物園など飼育できる施設がない」というものだが、ある県庁職員は「引き取ってもらっても、批判が出る可能性があるし…」と話した。

クマ牧場も「野生のクマは引き取りません」

   05年8月19日に世界動物園水族館協会のエドワード・マカリスター会長が東京都内で会見し、日本国内の「クマ牧場」について「先進国の日本で、まだこんな劣悪な環境でクマの飼育が行われているとは驚いた」と厳しく批判した。「なぜあんな施設に渡したんだ」といった批判が出るのを気にして、引取りに消極的になっているのだ。

   そこで、「クマ牧場」側にも聞いてみた。あるクマ牧場は「野生のクマは引き取りません」と答えた。「病気を持っていたりすると、全滅の危険も出てくる」という理由だった。仮に引き受けても、群れの一員になりにくいため、収容施設を新設しなければならない、という。その費用も問題だ。昨年まで野生のクマを引き取っていたという、あるクマ牧場も今年は引き取る予定はないという。

   熊と人間の共存は難しい。

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