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トヨタ1,000万台宣言 それでも必死に社内引き締め

   トヨタ自動車が、自動車メーカーとして史上初の年間1,000万台の大台突破を目指す「2009年にグループ全体(日野自動車とダイハツ工業を含む)で1,040万台」の世界販売計画を発表した。2007年の販売で米ゼネラル・モーターズ(GM)を抜き、世界トップに立つことが確実視されているが、この数字は、その後も成長を続けるという強い意思表明だ。ただ、2007年3月期の連結売上高はロシアの国家予算並みの23兆9,480億円と、向かうところ敵なしなのに、経営トップはここ数年、社内の慢心への戒めをしきりに口にする。

「おごれるものは久しからず」と自らに言い聞かせる

「1000万台超え」でも、社内への戒めのような発言が相次いでいる
「1000万台超え」でも、社内への戒めのような発言が相次いでいる

   渡辺社長は8月末の経営説明会で、「最近は三つのことわざをよく話しており、自らにもいい聞かせている。『おごれるものは久しからず』と『千丈の堤もアリの一穴から』、『水も漏らさぬ経営とはなにか』だ」と語った。もともと「愛知・三河の堅実経営」で知られるトヨタだが、最近の会見でも社長が問わず語りに、社内への戒めのような発言が目に付く。

   トヨタは1990年代後半から高まった自動車業界の世界再編機運にも、安易な提携戦略には向かわず、2000年以降は年60~70万台のペースで台数を伸ばし、2006年の世界販売代台数は約880万台。業績不振にあえぐGMなど米ビッグスリーを尻目に、気が付けば世界トップメーカーの座は目前だ。

   そんなトヨタの2009年の販売計画は、2006年実績比で北米が9%増の310万台、日本が同1%増の240万台に対し、アジアが同60%増の190万台、欧州が同24%増の145万台、その他地域が同26%増の155万台。景気減速の懸念がある米国と市場低迷の国内は堅めに、欧州やBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の新興市場は徹底的に攻める方針を鮮明にした。

   ロシアには12月に待望の現地工場が稼動する。中国では「カローラ」「カムリ」の現地生産体制を強化し、2010年代初頭に年100万台規模の販売目標を掲げる。欧州の小型車にはいすゞ自動車のエンジン技術を活用してディーゼル搭載車を増やし、インドやブラジル向けには低価格の現地生産車の開発と、着々と手を打っている。

いすゞと富士重工にも「以前より厳しめにものを言っている」

   米国市場は原油高などで市場が落ち込んでも、販売のマイナス幅は米国メーカーより小さいし、国内市場では軽を除くシェアが47%までに達し、独り勝ちの傾向は強まるばかり。無敵だからこそ、渡辺社長は「内なる敵」に目を向けざるを得ないのだろうか。渡辺社長は「トップランナーとしての使命として、モノづくりの質はもちろん、企業のマネジメントでもやはりおごりとか傲慢さというのは戒めていかなくてはいけない。特に部長層以上のところによく話をしている」と説明した。

   株式の一部を取得してトヨタグループの一員に加えたいすゞ富士重工に対しても、「最近のトヨタは、以前より厳しめにものを言っている」(関係者)という。渡辺社長は会見で、子会社の日野といすゞの経営統合の可能性について、「我々が乗り出しているということはないが、可能性という話で言うならゼロではない」などと、完全には否定しない。これもグループ企業を含めた「内部の地歩固め」発言の一つか。

   確かに、生産現場の熟練確保には限度があり、品質問題とも絡めて一度ミスが起これば「内側からの王国崩壊」にもつながりかねない。グループ企業との連携で、トヨタが主導権を握っていて不思議ではない。ただ、最近のトヨタは広報対応も含めて「そつはないが、面白みはまったくない」(業界担当記者)との声が聞かれる。巨大化するトヨタにはおごりの増大懸念以上に、引き締め発言で社員の意識が官僚化していく恐れにも、十分に心配していく必要があるのではないか。