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枝川二郎のマネーの虎
ノン・リコース住宅ローンを認めよ!

   そろそろ、このあたりで住宅ローンについてのとりあえずのまとめをしよう。

<提言>

「住宅ローンについては原則的にノン・リコース・ローン(住宅を明け渡せば完済とみなされるタイプのローン)以外認めないことにする」

住宅ローンの呪縛がとけて、家の「質」も上がる

   ノン・リコース型の住宅ローンを導入する前提としては、家の価値がローン満期日まで大きく下がらないこと、つまり耐久性に優れた質の高い家であることが必要となる。住宅市場では住宅販売メーカーが最近、地球環境にやさしい「100年住宅」をうたって住宅の質のよさを競っている。ノン・リコース・ローンにすれば、借り手にとっては住宅ローンによる呪縛が軽くなるだけでなく、結果的に家の質も向上することになる。

   また、ノン・リコース・ローンに関する疑問で最も多いのは「ノン・リコース・ローンになると借り手のコストが上昇するのではないか」というものだが、わたしはその心配のもあまりないと考えている。

   それは――

   (1)いままでのような安普請の住宅の寿命が30年、銀行でノン・リコース・ローンのための審査を通った住宅の寿命が60年だと仮定しよう。家を30年後に壊して建て直すコストと比較すれば、たとえ建設費やメンテナンスなどに多めに金がかかったとしても、60年もつ家のほうがコスト的に有利なことは明らかだ。

   (2)人々のトータルな資金力には限度があるので、モノの値段はその範囲内で決められる。たとえば、金利が上がる(下がる)と住宅の価格が下がる(上がる)という現象が起きる。よって、一斉にノン・リコース・ローンにシフトするのであれば、値段の上昇はかなり抑えられると考える。

   (3)日本では建設関係の費用が非常に高く、コストを下げる余地が大きい。アメリカの大半の住宅はツー・バイ・フォーで建てられているが、地震や砂漠、竜巻といった自然環境や災害、アラスカ、ハワイ・・・の地域性などと多種多様な環境を耐えぬいてきた優れた工法でありコストも低い。ちなみに、大正時代にツー・バイ・フォーで建てられた東京駅の赤レンガ駅舎はいまなお現役で活躍している。

   (4)銀行としても、担保価値(金銭的価値)がゼロに近いような安普請の住宅が横行している現状がよいとは思っていないはず。不十分な担保をベースに低利で個人に長期貸付をするほうがむしろリスクが高いのではないか。質の高い住宅を担保に取ってきちんと管理していけば、銀行もノン・リコース・ローンのメリットを享受できるはずだと思う。

   (5)住宅建設は広範な経済効果を有する景気浮揚策となる。政府は道路や橋ばかりではなく住宅にもっと支援をするべきだ。政府が金利の控除の枠を与えれば、支払金利の実質的削減になる。

といった理由からだ。

なにがなんでも返済を強制する日本の「悪習」を正す

   優れた住宅は社会的インフラとして大きな価値をもつ。「悪玉」となったサブプライム住宅ローンにひとつ利点があったとすれば、それは米国民の住環境を前倒しで改善させたということだ。

   アメリカの普通のサラリーマンがどれだけ立派な家に住んでいることか。それに比べてお話にならないレベルにある日本の住環境。その質を向上させる第一歩として、さらには家が倒壊しても失業しても病気になってもローンの返済を強制する、わが国独特の悪習を正すためにも、ノン・リコース住宅ローンの導入を提言したい。

++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。