「子供が王様」これでいいのか フィンランド式教育に学べ

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   日本の「学力」低下が懸念されるなか、フィンランド式教育が注目されている。OECDが実施した学習到達度調査(PISA)で、日本は順位が低下傾向にある一方、フィンランドは上位を維持していることもあって、ちょっとしたブームになっている。国内でも授業に「フィンランド式」を取り入れる学校が出現したほか、「フィンランド式学習」を謳った書籍も続々と登場している。「フィンランド式」の根幹は何なのか? J-CASTニュースでは、実践型の「フィンランド式学習」としては初の書籍『フィンランドメソッド実践ドリル』を執筆した諸葛正弥氏に聞いた。

――フィンランドメソッドとはそもそも何なんですか。その特徴はどこにありますか。

「ジャパンメソッド」と日本人が聞いて、「そんのものがあるのか」と感じるように、フィンランドの人たちに言わせると、「フィンランドメソッド」というものはないんです。現地の学校で行われている習慣みたいなものだと考えてください。

日本との一番大きな違いは、自分が持っているものを、アウトプットとして表現するというところです。モノを覚えることが評価されるのではなく、自分たちの言葉で「表現する」「スピーチする」「プレゼンする」が多く求められるのです。

みんなに分かってもらうために自分はどういう言葉を使ったらいいか、表現したらいいか考える。つまり、アウトプットの力を磨く。もっと言うと、知識を得るにしても、皆にきちんと伝えようとするためという意識が強い。

向こうの学生はテストの対策には、「本を読め」といわれるんです。自分がプレゼンをするためのソースとして、情報を抽出するために読むんですね。そこで、情報の抽出能力を深めていく、当然、読解力も高くなっていきます。

「覚えたけどそれをどう使うの?」がポイント

「フィンランド式の名前残らなくても、考え方が残って欲しい」と述べる諸葛正弥氏
「フィンランド式の名前残らなくても、考え方が残って欲しい」と述べる諸葛正弥氏

――小学生の頃から「プレゼンする」という訳にはいかないですよね。やっぱり、段階みたいなものを踏む?

小学校ぐらいだと、キーワードを並べて、それを全部使って一番短い作文を作ってみましょうというテーマで作文させるとか。情報を整理させてから自己紹介させるとか。自分は何が話せるかを整理させてからプレゼンする。小学校の頃はそういった下準備をします。そして、だんだんプレゼンができるようにしていくというわけです。

――日本で求められている学力とフィンランドで求められている学力はそもそも違いますよね。求められている学力が違うのに、フィンランド式になぜ関心が集まっているのでしょう。

日本人は外国のものが好きという面はあると思いますが、フィンランドの教育で重視している情報抽出能力、表現する力というのは確かに日本の教育のなかでいままで確立していなかった。それを育てるために、フィンランドメソッドが使えればいいのかなと。 表現しろといわれて、困ってしまう日本人は多い。食べ物が好きな理由を3つ挙げろといった場合、「美味しいから」という。だけど、どういうところが好きなのか正しく伝えられない。相手の立場に立って、踏み込んで行ける人もほとんどいない。「覚えるには覚えたけどそれをどう使うの?」っていうところはあったんじゃないでしょうか?アウトプットさせていく教育はほとんどされていないから。

――『フィンランドメソッド実践ドリル』はどう使えばいいのでしょう?

この実践ドリルをつくったのには目的があって、ターゲットは一般のビジネスマン。だから、問題の難易度は高めです。大人がチャレンジして、表現力とか論理力が足りない「難しいなぁ」ってことを実感していただいて、「大人の自分ができないということは子供たちはどうなんだろう」って発想になってもらいたい。そして、親から子供に伝えるコミュニケーションをそこでつくってもらいたいと思います。だから子ども用のドリルを作っても意味はないだろうと考えていました。

子供が大人を見下している環境が問題だ

――「答えがない」というのは新しい。日本では「正解がある」というのが当たり前になっていますよね。

フィンランドメソッドは、その一つの投げかけですね。今の教育は「子供のために」という言葉を履き違えているのではないかということです。子供にとって、親も教師も都合のいい大人を演じてしまっている。子供に皆が振り回されてしまっている。そんな気がしてなりません。

子供が大人を見下している環境ってありますよね? 教師が何かすればすぐ「教育委員会に訴えてやる」と子供が言う。そんな状態で子供が先生の指導を聞くのか、やらされていている先生を子供が信用できるか、というと難しい。

その親はどうかというと、子供の言いなりになって先生を攻撃する、社会を攻撃する。言ってみれば、子供が「王様」になってしまっている。

たとえばトイレに行きたくなった生徒が「先生、トイレ」といったりしますが、これは日本語ではないですよね。「先生、トイレに行っていいですか」というべきなのに、それで許してしまうから表現しなくなる。周りがみんな、察してくれる。そんな傾向が今の教育現場で物凄く強いのです。増えているのは「お友達先生」。生徒と同じ目線でわいわいやっているのが楽しいからいい、という人たちです。

こんな大人になりたいと思えないですよね。今の時点で対等ですから、大人から何かを学びたい、吸収したい、という姿を見出すことが難しい。当然ながら子供たちに向上心が生まれない。大人のスタンスを考え直さなくてはいけない。そういう観点からこのドリルを作ったというのはあります。

――フィンランド式の教育をもっと取り入れるべきだと思いますか。

フィンランド式は数値で評価するテストはほとんどしない。それには社会的背景があります。日本で大学受験があって、偏差値があって、テストで点を取るという文化がこれほど根付いているなかで、「テストをやめろ」という風になって、0か1の二元論になってしまうのは怖いですね。それでは日本の教育システムが崩壊するだろう、と。全部フィンランド式にすればいいとなってしまうと、日本の持っていたいいものをなくしてしまうことになるような気がします。

たとえば、日本で「フィンランド式」で解答を書くとき、算数だと、図と式だけ書けばいいというのを、言葉でしっかり説明させるということをしたんです。表現力のトレーニングなんです。理科、社会の知識科目を教えるにしても、「カルタ」を使って枝葉を広げることを宿題にする。すると、次の授業でも反応がよくなる。知識の定着も早いです。 何もかも全部フィンランドメソッドでやるというより、今のカリキュラムで取り入れるところを取り入れてもらうというのが良いのではないでしょうか。フィンランド式という名前で残るかは別にして、こういう発想が大事だよねという考え方だけでも残ってくれればいいのかな、と思っています。

【諸葛正弥(もろくず・まさや)プロフィール】
1974年生まれ。教育技術コンサルタントT's skill教育技術研究所代表。NPO法人交流分析協会会員、交流分析士。大手進学塾講師などを経て2005年度より「T's skill教師塾」を主催し、塾講師出身の教員研修講師として活動。

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