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富士重の水平対向エンジンFR車 世界の車好きの期待に応えられるか

   富士重工業が「スバル360」発売50周年に当たる節目の年に軽自動車の自社開発・生産から撤退を決めた。森郁夫社長は会見で「われわれのコア領域にリソースを傾注する」と決断の理由を語った。コア領域とは水平対向エンジンとその搭載車種のことを指す。「レガシィ」「インプレッサ」など同エンジン抜きに成り立たない強い個性を持つスバル車を守るために、軽自動車をあきらめざるをえなかった格好だ。

「軽の次期車開発が止まっている」とのうわさも出ていた

デザインで訴求しようとした「R2」は苦戦している
デザインで訴求しようとした「R2」は苦戦している

   スバルの軽のラインアップは2009年から3年程度かけて順次、ダイハツからのOEM(相手先ブランドによる生産)車に切り替わる見込み。一方、トヨタとは水平対向エンジンを搭載する小型FRスポーツカーを共同開発し、2011年末から両社で販売。富士重は今回の提携で活路を見いだせたのだろうか。

   今回の提携強化ではトヨタが富士重への出資を16・5%へ拡大。これによって得られる311億円は小型FRスポーツカーを生産する完成車工場新設費の一部に充当する。

   富士重の軽撤退は2005年10月にトヨタがGMに代わって富士重の筆頭株主になったときから囁かれてきた。トヨタグループにはスズキから2006年度に軽首位の座を奪ったダイハツ工業が構えており、富士重と事業領域がラップしていたためだ。

   もちろん、富士重が軽事業を順調に営んでいれば問題はなかったが実態はそうではなかった。デザインと走りを訴えて勝負に出た「R2」「R1」は販売が伸びず大苦戦。スズキとダイハツがトップ争いを繰り広げ、日産自動車がスズキ、三菱自動車からのOEM調達によって軽戦線に参入したこともありスバルのシェアは低下した。ディーラーの間では「次期車開発が止まっている」との噂が出ていた。

2009年全面改良を迎える「レガシィ」も課題

   グローバル化と環境・安全技術の高度化で自動車メーカーの研究開発の仕事量は膨張している。富士重も北米向けにクロスオーバー車「トライベッカ」を投入し、国内で手つかずだったミニバン市場には水平対向エンジン搭載の新型車を導入する。欧州の拡販に不可欠なディーゼルエンジンを水平対向で今春実現し、次世代の水平対向エンジンとこれにフィットするCVT(自動無段変速機)と車台を開発…と、ざっと見ても果たしてこなせるのかという疑問がわくほどだ。

   今となってはスバルの生き残りには選択と集中が不可欠だったことは容易に理解できる。「R2」「R1」がヒットしていれば、という仮定は意味を持たない。

   今後は2009年フルモデルチェンジを迎える「レガシィ」を始めとする水平対向エンジンのスバル車と、共同開発の小型FRスポーツカーで成功を収めることが自動車業界でポジションを確保するうえで最低限の条件になる。水平対向エンジン搭載のFR車のアイデアはユニークで、新たな小型スポーツカーの世界を開くチャンスといえる。スバルファンのみならず世界の車好きの期待に応える車づくりが求められている。