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「少女から生きたまま心臓移植」 映画「闇の子供たち」の問題PR

   タイでの人身売買を描いた日本映画「闇の子供たち」が、あたかも実話のように宣伝していることに批判が出ている。タイでは、映画そのものも「イメージがよくない」として映画祭で上映中止に。映画のPR会社では、「身近にある問題と感じてほしかった」と説明している。

「人身売買の現実」とうたい誤解与える

邦画「闇の子供たち」の公式サイト
邦画「闇の子供たち」の公式サイト

   公開中の邦画「闇の子供たち」は、主人公の新聞記者男性がNGOボランティア女性と協力して、タイでの幼児人身売買・売買春の実態に迫っていくというストーリー。「亡国のイージス」などで知られる阪本順治監督の作品で、江口洋介、宮崎あおい、妻夫木聡といった人気俳優が出演している。2008年8月2日の公開では、7館だけの上映だったが、その後102館にまで拡大する異例のヒット作になっている。

   衝撃的なのは、その人身売買の中身だ。心臓手術でタイに行った日本人の少年が、タイ人の少女から生きたまま心臓の移植を受けるというのだ。

   映画の原作は、梁石日さんの同名の小説。しかし、映画の公式サイトでは、実話のように紹介されている。「値札のついた命 これは『闇』に隠された真実の物語」「実際にタイのアンダーグラウンドで行われている幼児売買春、人身売買の現実」といったフレーズだ。また、動画サイト「ギャオ」では、「ノンフィクション映画」と、エキサイトのサイトなどでは、「ショッキングな真実」などとの解説もある。

   さらに、阪本監督自身も、実話のようにインタビューに答えている。読売新聞の7月31日付記事では、「脚本化に先立つ現地調査で『フィクションではなく真実だと分かった』」としているのだ。

   こうした映画の紹介に対して、2ちゃんねるなどネット上では、「事実と日本人への誤解を生む」と反発が出ている。さらに、タイでは、作品そのものも「イメージがよくない」などとして、9月23日に始まったバンコク国際映画祭で上映が中止に。「タイ国内で無許可撮影した」というのも理由だった。

「身近にある問題と感じてほしかった」

   映画が「真実」「現実」なら、生きた子どもからの心臓移植に日本人が加担していることになる。そんなことは、本当にあるのか。

   これについては、映画の取材協力者が明確に否定している。大阪大医学部付属病院の福嶌教偉医師は、日経ビジネスサイトの08年8月8、11日付連載記事で、

「タイで、日本人が心臓移植を受けた例はない」

と明かす。

   映画では、少年の母親が、命を金で買うことになる手術をNGOの女性から止めるよう言われ、「あなたは息子に死ねと言うのですか」と反論する。この言い方について、福嶌医師は、自らの体験からこう話す。

「僕としては、ちがう言い方をしてほしかった」
「心臓移植を受けようと思っている子供の両親が、よその子供を殺してまで自分の子供を助けたい、精神的にそう思っている人は、一人もいない」

   心臓移植には、少なくともエキスパートが8人必要で、リスクが高すぎて儲けることは難しいとも言う。さらに、誤った情報を与えた結果、海外で移植を受けた子どもたちがしょく罪の意識を持つことが怖いとし、「その子供は自殺するかもしれない」との懸念も示している。

   ネット上の批判や福嶌医師の危惧について、映画のPRをしている樂舎の担当者は、こう説明する。

「すべてフィクションとしてしまうと、ほかの国の関係ない話と受け取られる恐れがあると考えました。売買春は実際にあるため、身近にある問題として感じてほしかったことがあります。映画のラストシーンは、見ている人に跳ね返ってくるようなものにしています」

   生きた子どもからの心臓移植については、「かなり極端な例で、そこはあくまで劇映画ということです」として、「作品は、ノンフィクションを強調しているわけではありません。国を告発するというのではなく、大人の醜さを描きたかったということです」と話している。

   また、無許可撮影については、「現地の警察に協力をお願いし、許可を受けて行っています。事実関係が誤解されている部分があります」としている。なお、阪本監督は9月24日、上映中止を受けてタイで記者会見し、「残念の一言です。上映が成立し、タイ人の意見、批評、感想を聞きたかった」などと話した。