米国発金融危機後の中国経済 8%台の安定成長続けられるかが鍵
東洋学園大学 朱建栄教授に聞く

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   「北京五輪が終わると、中国経済は後退する」。多くのエコノミストがそう予測していたところに、米国発の金融危機が襲った。中国も「無傷」ではいられないようだが、潜在的な経済成長力はいまだに大きい。中国経済の先行きを、テレビでもおなじみの東洋学園大学の朱建栄教授に聞いた。

上海万博も控え、失速する事態は考えられない

「8%台の経済成長を維持ができるかが、中国にとってカギになる」と語る朱建栄教授
「8%台の経済成長を維持ができるかが、中国にとってカギになる」と語る朱建栄教授

――米国発の金融危機の影響をどのように見ていますか。

   米国発の金融危機の影響は、意外に大きい。一つは米国債を多く保有していこと。これがドル安で減価してしまう。また、米国経済が不況に陥ると、それが中国の対米輸出に跳ね返ってくるなど多方面で悪い影響が出てきます。
   半面、中国にとって、国際関係の強化につなげるチャンスでもあるのです。米政府は7000億ドルもの公的資金を投入する金融救済法案を成立させましたが、このうち1000億ドルを中国政府が購入する。実際に、胡錦濤国家主席がブッシュ大統領に協力を約束したことです。世界はこれまで米国中心の金融システムで動いてきました。それがいわば修正されるわけで、中国は金融分野で発言力を強めることができるのです。

――もともと、北京五輪の後に中国経済は落ち込むといわれていました。

   米国発の金融混乱の要素を除いて考えてみましょう。たとえば東京五輪やソウル五輪のときはどうだったのか。東京五輪当時の東京の国内総生産(GDP)は日本全体の4分の1。ソウル五輪のときのソウルが韓国全体の3分の1を占めていた。北京のGDPが全中国に占める割合は3.8%にすぎません。その点を計算にいれると、北京の経済力に陰りは出てくるが、中国全体における北京五輪の影響は限定的に止まるのではないか。それに上海万博も控えているので、失速するといった事態は考えられません。

――中国経済の成長率が9%台に落ち込みました。2桁成長はむずかしいようです。

   経済成長率は、09年でも9%台を維持できるとみています。もちろん、米国の金融危機の影響が気になるところです。ただ、中国の輸出商品は生活必需品ともいえるものなので、急激な落ち込みはないとみています。中国の安定成長は8%台だと思います。しかし、2010~12年になると、8%台を維持することができるかどうか。8%を切ると失業率の増加なども現れてきて、経済成長を阻害します。ここが転換期になるかもしれない。

――成長を鈍化させる要因はなんでしょうか。

   世界の工場といわれた中国ですが、賃金は1年前に比べて1割上昇し、安い人件費を求める海外企業の進出が鈍っています。もっと人件費が安い国へ移転していくケースも出てきます。原油価格の高騰も大きい。中国は原油産出国ですが、6割は輸入に依存しています。石油、エネルギー価格の上昇はすべての産業に影響し、物価の上昇につながり、インフレ圧力が高まっている。加熱していた沿海部の不動産や株式のバブルも、中国政府の予想以上にブレーキになりました。外資の投資の落ち込みが全体を押し下げる構造になっているのです。

2015-20年には、国政レベルでの民主化を迫られる

――中長期的には何が問題ですか。

   高齢化の進行は大問題です。2020年には日本に追いつくとまでいわれていています。「ひとりっ子政策」もあって中長期的には若い人がどんどん減っていく。その影響が雇用に表れ、2015~20年には雇用の供給が需要を下回る。つまり大変な人手不足時代がやってくるのです。
   もうひとつは国民の権利意識の高まり。社会に改善を求める動きは社会の進歩の表れで、悪いことばかりではないが、これが民主化運動へとつながる可能性があります。中央政府としては、生活格差などで積もった民衆の不満をなだめすかし、ゆっくりとしたスピードで、時間を稼ぎたい。それでも、おそらく2015~20年には、国政レベルでの民主化を迫られると見ています。政治面での民主化は不可避です。混乱が起きなければと思っています。

――中国の市民に日本はどう映っているのでしょうか。

   いまや世界が中国抜きでは回らないように、中国もまた国際社会なしでは生きていけない。日本にとっても中国はなくてはならない存在だし、中国にとっても日本は必要です。相互依存という言葉通りの世界になっているのです。「食」の問題にしても、日本は中国に改善を求めながら、中国と付き合っていかなければなりません。

――日本への注文は?

   いろいろありますが、いまの日本人に欠けているのは、「意欲」ではないでしょうか。わたしの大学の授業では、日本の学生と留学生ができるだけ話す時間をつくるようにしています。留学生は刺激を受けて、その目は輝いていますが、日本の学生は大人しい。学生だけでなく、社会全体が無気力になってしまっている気がする。かつての日本はアジアで唯一の先進国としての気概がありましたが、いまは内向きというか、なにかあると「政治の責任」「外国の責任」といって片付けてしまいます。「世界の中流でいい」みたいに感じられて、残念ですね。

朱 建栄氏 プロフィール
しゅ けんえい 1957年中国・上海生まれ。上海国際問題研究所付属大学院修士課程修了。学習院大学で博士号(政治学)を取得。
 1986年総合研究開発機構(NIRA)客員教授として来日。学習院大学、東京大学非常勤講師などを経て東洋学園大学人文学部教授。中国の政治外交史を専門分野に、テレビ朝日「朝まで生テレビ」などでも活躍中。


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