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枝川二郎のマネーの虎
米国よりも深刻な欧州 金融危機が国家の財政危機に直結

   今般の金融危機は米国のサブプライムローンがその震源となった。そのため、われわれはどうしても米国の問題に目を奪われがちになる。しかし、じつは欧州諸国の抱える問題も同程度あるいはそれ以上に深刻なのだ。

一国のGDPより大きい金融機関の資産

   欧州が深刻なのにはいくつか理由がある。まず、欧州の住宅バブルが非常に大きかったこと。過去数年間に中国、ドイツ、日本などが巨額の経常黒字を計上したが、その資金のかなりの部分が米国や欧州の住宅などの不動産投資にまわり、それがバブルをつくり出した。

   たとえば、スペインでは住宅建設ブームにより家屋の数が家庭の数の1.5倍にもなり、今では同国の至る所に空き家が並んでいるそうだ。

   各国の経常赤字の数字を見ると、米国の年間の経常赤字がここ数年GDPの5%程度であったのに比べ、英国が約4%、アイルランドが約5%、スペインが約10%という高い水準となっていた。つまり、それだけの資金が年々流入していたというわけだ。

   次に、欧州の大手金融機関が国境を越えて肥大化していったこと。UBSの総資産はスイスのGDP(国内総生産)の5倍弱、INGはオランダのGDPの3倍弱、フォルティスはベルギーのGDPの2.5倍といった具合に、総資産が国のGDPを大きく上回る銀行も少なくない(英フィナンシャルタイムズの2007年データによる)。

   ということは、銀行の自己資本や流動性が大幅に悪化した場合に、各国政府が支援するのが困難になることを意味する。金融危機が国家の財政危機に直結するわけだ。

   ちなみに、日本の銀行の貸出残高は全部の銀行を足しても400兆円ほどで、日本国のGDP約500兆円の8割程度にしかならない。

通貨統合の拡大その先のロシアどうなる

   さらに通貨について考えると、統一通貨「ユーロ」を採用している国を除くと、金融危機が通貨の信頼に悪影響を与えるようになったところが多い。英国でさえも大手銀行RBSの問題が引き金となってポンド価格の暴落が起きたし、ましてハンガリーやアイスランドといった国々では自国通貨の信用力低下が国家の基盤を揺るがす事態となっている。それに比べて日本円は世界での評価も高く、このところほとんどの通貨に対して円高に推移している。

   では、欧州の今後は?

   欧州は経済、環境、エネルギーと、さまざまな観点から、さまざまな利害を共有する大きな地域だ。そのために欧州諸国が今以上に連帯して難局を乗り越える仕組みを構築することが必要だろう。ドイツやフランスのように経済状況が比較的よい大国がリーダーシップをとってまとめていくことが期待される。

   ECB(欧州中央銀行)の創設による金融政策の統合と通貨統合は成功裏に推移しており、地域の経済促進に大きな効果があったことは間違いない。しかし、このところの経済危機の下で国家間の格差は広がる傾向にあり、今後の展開は予断できない。

   また、統一通貨「ユーロ」を使用する国が増えるのは当然の流れながら、東欧各国さらに将来的にはトルコなどまで視野に入ると、当然ながらリスクも増える。そして、その先にはロシアがあるのだ・・・。

   政治・文化の多様性を認めながら経済面では協調する、という「いいとこ取り」は可能なのか。壮大な実験が進行している。


++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。