解雇規制の緩和、撤廃 これで雇用が増える
経済学者・池田信夫さんに聞く

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   「派遣切り」が深刻化するなど、雇用を巡る情勢は悪くなるばかりだ。どうしたらいいのか。手立てはないのか。「正社員に対する解雇規制を緩和すべきだ」と提言している経済学者の池田信夫さんに聞いた。

――派遣労働者の契約期間3年が過ぎると、直接雇用にするか契約を打ち切るかを選ばざるをえなくなる、いわゆる「2009年問題」も目前に迫っています。

池田:   最も心配されていたのが、製造業で派遣を切られると「3か月間の冷却期間をおかないといけない」という項目です。そうなると、法律を守るために、企業は必要な人までいったん首を切らざるを得なくなる。これは非常に深刻な問題です。少なくとも、雇いたい人を無理矢理、首にしないといけないような状況は避けないといけません。

価格メカニズムというのは、どこの国でも大なり小なり嫌われる

解雇規制の問題について話す池田信夫さん
解雇規制の問題について話す池田信夫さん

――具体的には、どのような対策を取るべきだと思いますか。

池田:    暫定的にでも、冷却期間の規定を凍結すべきだと思います。つまり、2009年3月に厚生省の推定のように15万7000人の契約が切れるとして、仮に半分を企業が雇いたいのであれば、その分は継続して雇うことができるような措置が必要なのではないでしょうか。具体的には、例えば政令で「暫定的に冷却期間の規定について一時的に凍結する」と定めるなどです。

――最近、派遣という制度自体に異議を唱える人も多い。

池田:    ちょっと前には、民主党の菅直人代表代行が社民党と共同で製造業への派遣を禁止する法案を発表しました。派遣の禁止は、すでに雇われている人をクビにするというのに等しい。不況のまっただなかに、さらに失業を作り出す仕組みです。そのあたりを理解している人が少ない。

――舛添厚労相の「他人に首切りをさせる。それが派遣業」との発言もありましたね。

池田:    そりゃ、感情論では分かるんですけどね。こんなことを言うと多分嫌われるんでしょうが、経済学というのは、短期的な目の前の利益と、長期的な全体として見た場合の利益を、比較しながら考えていくものです。ところが、識者といわれる人も「目の前のかわいそうな人を助けないといけない」となる。消費者金融への過払い金訴訟などが良い例です。裁判所も「一度払った借金を返せ」と認めてしまったために、消費者金融会社は続々と潰れています。その結果、数百万人ともいわれる人々が、この市場から排除されました。結果的に、ちゃんとお金を借りて返していた人まで、お金が借りられなくなってしまう。

――「首切りはけしからん」「非正規を守れ」という大合唱です。

池田:    感情論という意味では、今回の「派遣切り」も同じだと思います。政府が「全員正社員として雇わないといけない」という方針であれば、そのような法律を作るしかありません。「派遣も請負もダメだ」と。そうなると、大幅に雇用は減少するでしょう。さらに話を進め、「どこの企業は何人雇え」となると、これはもう社会主義です。社会主義がどうなるかというのは、歴史が証明しています。
つまり、「企業が、必要な人を必要な待遇で、自分たちが利益が上がるような形で雇う」ということで、結果的に雇用の安定が保たれているのです。そこに個別の事情を無視して役所が別のシステムを押しつけても、いいことが起こる訳がありません。にもかわらず、自分たちの利害に直接関係するとなると、やっぱり社会主義が出てきてしまう。

――どうしてでしょう。

池田:    価格メカニズムというのは、どこの国でも大なり小なり嫌われるものです。感情や正義を無視して動くドライなものですから。それを、労組などが「けしからん」というならともかく、舛添さんみたいな客観的に物を見るべき立場の人が、感情的な発言をするのを見ると、日本の政治は成熟していないんだと思い知らされます。

解雇規制が緩やかな北欧の方が、労働生産性が高い?

――池田さんは、「正社員に対する解雇規制を緩和すべきだ」と主張しています。これによってなぜ雇用情勢が改善するのでしょうか。

池田:    雇用が流動化することによって、クビを切られる人が出てきます。ただ、これは短期的な問題で、長期的に見ると、解雇規制の緩和・撤廃によって、企業には新しい人を雇うという動機が生まれる。
企業にとって新卒の学生を雇うのは、大変な投資です。生涯賃金は2~3億円と言われていますから、「一度雇ったらクビにできない」という現状からすると、2~3億円の設備投資をするようなものです。ちょっと大きな工作機械を買うようなものです。
企業側からすれば、正社員は「絶対間違いない人」しか雇わず、それ以外は派遣などの非正規でカバーせざるを得なくなる。リスクヘッジとしては当たり前です。固定費になってしまっているからです。こういう状況を変えない限り、労働需要は増えません。解雇規制の緩和・撤廃は、表面だけ見れば「クビになる人が増える」という可能性が高いですが、長期の、経営者からの視点からすれば、「固定費が低くなる」ということです。そうなると、「(賃金)3億なら5人しか雇えないけど、1億なら15人雇えるかもしれない」と、結果的に直接雇用で多くの人を雇えるようになるはずです。私も「直接雇用が望ましい」点には完全に賛成です。
今の制度では、お上が「直接雇用しろ」と命令することはできません。企業が直接雇用したくなるようなインセンティブ(動機)を与えないといけない。だから、強すぎる規制を緩和する必要があるんです。

――-「解雇規制が緩やかな北欧の方が、労働生産性が高い」という指摘もあります。

池田:    議論としては10年近く前からありますが、学者の間でも見方、評価は分かれています。例えばデンマークでは、OECDの中でも米国、英国、スイス、カナダに次いで解雇規制がゆるく、毎年10%以上が失職するとされています。それでも、手厚い失業支援や政府の就業支援があるため、他の企業に再就職するのも比較的容易で、長期失業者の割合は低く抑えられています。
北欧諸国の「高福祉高負担」は、効率が悪いと思われてきたのですが、デンマークの1人当たりのGDPは米国よりもかなり高い。これはここ10~15年の変化です。

「北欧モデル」、民主党も興味を示している

――-デンマークはなぜ可能だったのでしょう。

池田:    ひとつの見方としては、労働移動が自由だと言われていることです。労組の組織率が非常に高くて、仮に会社をクビになったとしても、組合の中に転職をしやすいようなインフラができている。人口が500万人に過ぎないからこそ出来ることかも知れません。日本では労組の組織率も低いですし、簡単にマネはできないと思います。
ただ、「高福祉高負担」でも米国よりGDPが高い理由を考えてみると、「労働生産性が高い」ことにつきます。企業は労働生産性が落ちると、労働者をクビにせざるを得ない。さらに、「同一労働=同一賃金」という原則があります。儲かっている会社もダメ会社も、同じ労働には同じ賃金を払わないといけない。そうすると、効率が悪い、採算の悪い会社は、人を雇えなくなってしまう。賃金が労働生産性を上回りますから、労働者をクビにして会社自体が撤退、クビになった労働者は他の会社に転職する。労働者にはやさしい、でも企業にとっては厳しい仕組みです。

――-解雇された労働者は、どうなるのでしょうか。

池田:    職業訓練設備も充実していますし、「職業訓練を受けないと、失業給付も受けられない」という仕組みもあるようです。(1)柔軟な労働市場(2)厚い失業給付(3)職業訓練、という「黄金の三角形」とも呼ばれています。この3つを組み合わせることによって、一見、労働者には不親切に見えるシステムでも、結果的にメリットが大きい、ということが分かってきたんです。
英国のように細分化された労働組合があると、労働移動が難しくなりますが、北欧は、「柔軟な労働移動で、グローバリゼーションに対応できている」というのが、ひとつの説明です。「グローバリゼーションに対応できる」というメリットが大きいのであれば、北欧の例は、日本も参考にする価値があると思います。

――-日本が参考にできるのは、どのような点でしょうか。

池田:    今日本経済が危機に瀕している理由を考えてみると、「中国などに、負けてしまっている」ということです。特に労働集約的な製造業では、これが顕著です。そういう産業は、日本では立ちゆかないはずなんです。ところが日本は終身雇用なので、「産業と労働者が一緒に沈没する」という現象が起きてしまっています。
日本経済にとって大事なのは、「競争できないところはあきらめる」ことで、福祉なり介護、サービス業などの需要がある分野に労働者を移転させる必要があります。その場合、北欧の例が参考になるかもしれません。セーフティーネットをしっかり整備して、労働者が「この会社、もうダメだ」と判断し、キャリアを途中でやめても大丈夫な仕組みが必要でしょう。
個別の企業にとってセーフティーネットはない方がいいんですが、社会全体にとっては、あった方がいいんです。もっとも、企業にとっても、要らない労働者を辞めさせやすくする意味で、長期的には(セーフティーネットは)あった方がいいんです。

――-日本の例に当てはめて考えると、いかがでしょうか。

池田:    かつての日本の大企業は、会社の中で雇用調整をしていた。「A部門で人がいらなくなったら、再トレーニングしてB部門に配属する」といったように。これが上手くいっていたのは、企業別組合が配置転換に協力したからですが、今や企業グループの中の配置転換では対応できなくなった。北欧のケースでは、産業別労組が企業を超えた労働移動を支援する役割を果たしているのです。実はこの「北欧モデル」、民主党も興味を示しているようなんです。「労組が転職を世話する」というスキームですから、(連合を支持母体に持つ)民主党としては政治的にも乗りやすいですよね。

池田信夫さん プロフィール
いけだ・のぶお 経済学者。1953年京都府生まれ。東京大学経済学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組の制作に携わる。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、上武大学大学院教授。近著に「ハイエク 知識社会の自由主義」、(PHP研究所)、「なぜ世界は不況に陥ったのか」(共著、日経BP社)など。

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