2024年 4月 19日 (金)

最高学府はバカだらけ この現実どうするのか
(連載「大学崩壊」第1回/大学ジャーナリスト・石渡嶺司さんに聞く)

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   学生の質が低下している。財政基盤が危ない。数そのものが多すぎるのでは…。少子化が進むなか、大学を巡る環境はかつてないほど厳しい。大学はいったいどこに向かおうとしているのか、連続インタビューで考える。

   第1回は、「最高学府はバカだらけ―全入時代の大学『崖っぷち』事情」(光文社新書) などの著書がある大学ジャーナリストの石渡嶺司さんに、大学生の質の低下と「再生」の動きについて聞いた。

「マンガ雑誌」と「ファッション誌」しか読まない

「大学生再生」の方策について語る石渡嶺司さん
「大学生再生」の方策について語る石渡嶺司さん

――320以上の大学に出向いて取材したと聞きました。そもそも、どういうきっかけで大学に興味を持ったのですか。

石渡:   知人に、すごく大学に詳しい人がいて、いくつかの大学の学園祭に連れて行かれたんです。そのひとつが、(01年当時)設立されたばかりの西武文理大学(埼玉県狭山市)。ひところ、校則があったり「バーベキュー入試」をしていたりで、脚光を浴びた大学です。新設校ですし、大学教職員はやる気にあふれていることが見学者である私からも分かりました。教職員の頑張りに、学生の半分は応えていました。問題なのが残り半分で、とことんいじけている。ある2年生に話を聞いてみると「日大と駒澤に落ちて仕方なく…」。とにかく、ものすごく暗い。入試直後ならともかく、2年生後半にもなって引きずっているのはおかしい。「半分はやる気があって、半分がいじけている」という「落差」を目の当たりにしたときに、大学に対する興味を持ちました。

――学生の質の低下が問題化していますが、具体的には、どんなケースがあるのでしょうか。

石渡:   大学の側も、「出席しないと単位を出さない」ことにしているので、出席率自体は上がっています。ただ、IT化が進んだ大学では、各自のノートPCから無線LANに接続できる。本来は、「関連した情報をすぐに調べられるように」ということで設置された無線LANなのですが、実際は関係ないページを見たりして遊んでいる学生も多い。「心ここにあらず」といったところです。
   書いてはいけない内容をブログやミクシィに書いて「炎上」するなど、ITリテラシーの欠如も、目に余る。これは、高校での「情報」などの教育が機能していないことが背景にあります。
   あと、「何でもネットですませよう」という傾向も強い。図書館の使い方を知らない学生が増えています。先日、ある関西の中堅大学で就職についての講演をしたのですが、「雑誌は何を読んでいますか?」というアンケートをとってみたところ、半分が「読まない」。残り半分も、内訳はというと、「ジャンプ」「サンデー」「JJ」「non-no」「Number」「鉄道ファン」。彼らにしてみれば、雑誌というのは「マンガ雑誌」「ファッション誌」「趣味の雑誌」。「『週刊朝日』『AERA』って知ってる?」と聞いてみても、「え、それ、食べられるものなんですか?」といった感じなんです。知らないし、読まない。本についても同様です。学生が文字を読む量は変わらないのですが、ネット・ケータイで読む文字数が増えている分、新聞・雑誌・書籍で読む文字の量が減っている。
   それに、少子化の影響で、社会人との接触が非常に減っています。年を追うごとに、この傾向が加速しています。幼くなっています。社会人との接点がないまま就職活動を迎えて、初めて面接で社会人に接してビックリしてしまう。普通の面接であっても、「圧迫面接」だと感じて、「壊れてしまう」人も多いです。

「英・国・社のうち、どれか1教科だけでOK」という入試制度

――劣化が始まったのは、いつごろでしょうか。

石渡:   ひとつの目安は、高校のカリキュラムのもとになる、文科省の学習指導要領の改訂だと思います。数年前に「ゆとり教育」の第1世代目が社会人になって問題化していますが、その1世代前の改訂でも、すでに内容はスカスカと言ってもいいようなものでした。
   例えば、「スカスカ」になる前の学習指導要領では、社会であれば、地理・世界史・日本史の3教科が必修でした。今の高校生で、この3教科を履修している人は、必ずしも多くはないでしょう。
   必修科目が減ったことで、基礎的な素養を身につける機会が失われた面があります。必修科目が減った分、増えたのは「家庭科」「情報」といったもの。それぞれの科目自体には意義はあるのでしょうが、どうしても「その場しのぎ」の感がぬぐえません。例えば、「情報」では、情報リテラシーを身につけさせることがミッションだとされていますが、必ずしも上手くいっている訳ではありません。むしろ、「情報機器の扱いには長けているが、リテラシーは身についていない」という状況なのです。「総合的学習の時間」にしても、学校側が枠を持て余しているというケースが多い。

――その他に、質を低下させている理由は?

石渡:   入試制度ですね。以前と比べると、明らかに易しくなっています。これが、学生の質を劣化させています。少子化が進行し、大学間競争も激化していることが背景にあります。多少、大学進学率が上がっているとはいえ、大学の数は1955年には228校だったものが1990年には507校、09年4月時点では775校。明らかに増えすぎ。その結果、大学としては「何としても受験生・学生を確保したい」となる。それで、推薦入試だけでなく、一般入試も易しくなっていく。具体的には、私立文系であれば、受験科目が「英語・国語・社会」だったのが、社会がなくなって「英語・国語」になる、といった具合です。国語であれば「漢文や古文を抜く」ということになります。極端な話だと、「英・国・社のうち、どれか1教科だけでOK」というケースさえあります。

AO入試は、推薦入試の「隠れ蓑」

――AO(アドミッションズ・オフィス)入試の問題点が指摘されることも多いですね。

石渡:   日本で最初にAO入試を導入した慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)のような、一定レベル以上にある大学であれば、「ユニークな学生を取る」という意味で、それなりの意味はあると思うんです。ただ、いわゆる「準難関」と呼ばれるレベル以下の大学では、AO入試は、推薦入試の「隠れ蓑」になってしまっています。文科省は、入学者に対する推薦入試合格者の割合を50%以下にするように制限しています。ただ、大学側が「AO入試は推薦入試ではない」と言い張れば、「50%制限」にひっかからないんです。
   いわゆるペーパーテストを課さないので、試験としては簡単です。しかも、入試を行う時期に制限がない。青田刈りも可能なんです。

――実際のところ、「AO生は一般入試組よりも質が低い」ということでしょうか。各大学の状況はいかがでしょうか。

石渡:   東北大や九州大(21世紀プログラム)などの一応成功している大学では、成果をオープンにしていることが多いのですが、失敗しているところでは、情報公開しないですね。AO入試と言っても、大学によって全然違います。ですから、芝浦工業大や東京理科大、マーチ(明治、青学、立教、中央、法政)・関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)クラスの「準難関校」であれば、一応、入試として機能はしていると思います。日東駒専(日大、東洋大、駒沢大、専修大)あたりだと、機能しているのか「ザル」なのか微妙なところ。それ以下は、面接をするだけの「ザル入試」です。
   また、推薦入試について触れるとすれば、これまでは、あくまでも指定校推薦、つまり、大学側が高校を信頼して「枠」を与えるというものが中心でした。ところが、大学側と高校側の力関係が逆転しているケースが続出しています。大学の担当者が高校に営業に行くと、「で、おたくはいくつ枠をくれるの?」となってしまうんです。もっとも、枠をあげたところで、実際にどれくらいの学生さんが入学するかは分からないのが厳しいところですが…。
   それ以外にも「公募推薦」と呼ばれる入試をする大学も多いですし、「全高校を指定校推薦の指定校にしてしまう」という荒技に走る大学もあります。推薦入試を出張でやる大学もあります。何でもアリになってしまったんです。

「駄目な学生」を決して見捨てない金沢工業大学

――この二つの学力低下要因(学習指導要領、入試)の背景にあるのが、「大学が多すぎる」ということですね。

石渡:   大学が増えた一番の原因は、短大が急速に4年制大学に移行したこと。05年に596校あった短大が、08年には417校。ですから、約200校が移行した形です。しかも短大は約8割が定員割れ。4大以上に状況は厳しい。山脇学園のように、つぶれる短大も出てくるのですが、「つぶれるくらいなら、収入が2倍になる4年制に移行しよう」となる短大がほとんど。確かに2年制から4年制になる分、収入は増えるでしょう。ですが、当たり前の話ですが、経費も増えます。従って、「短大昇格組」は、非常に厳しい。次が、「自治体や専門学校が見栄を張って作った」ケースですね。専門学校であれば若干のPR能力はありますが、自治体は厳しい。例えば地元自治体が肝いりで作った鳥取環境大学は、定員割れが続いています。

――最後に、このような「ダメ学生」が多いという状況は、どうすれば改善できるのでしょう。著書では、「大学生活で『化学反応を起こして、見違えるようになる』学生もいる」というくだりがあります。どうすれば、この「化学反応」は進むのでしょうか。

石渡:   未成熟なまま入学してくる学生が圧倒的に多い。さらに、就職活動が事実上3年の夏には始まってしまう。そう考えると、大学で過ごせる時間は、明らかに短すぎるんです。ですから、せめてその短い間に、大学側は「サークル活動を充実させる」などの支援をすべきです。
   あるいは、入学前に「国が身分を保証するから、1年間アルバイトでもボランティアでもやりなさい」と、新たな活動を促すのはどうでしょうか。英国では、このような試みが行われているそうです。

――金沢工業大学は、手厚いサポート体制で有名ですね。

石渡:   ここは「駄目な学生」を決して見捨てないのが特徴です。学生は、中学・高校で教えられていないことも多くて、「知識の不良債権」みたいなもんです。普通の大学では、この不良債権を処理しないまま卒業させてしまったり、授業についていけずにドロップアウトしたり、という「ハードランディング」になってしまいがちです。ところが、この大学は、「ソフトランディング」を徹底的に目指す、数少ない例です。手を変え品を変え、補習・バックアップシステムを二重三重に構築したんです。この動きは他の大学にも広がっていて、望ましいことだと思います。

石渡嶺司さん プロフィール
いしわたり・れいじ 大学ジャーナリスト。1975年札幌市生まれ。私立北嶺中・高等学校、代々木ゼミナールを経て東洋大学社会学部社会学科に入学。卒業後、派遣社員、無職、編集プロダクション勤務ののち、2003年にライターとして独立。以後、大学・教育問題や学生の就職活動などを中心に評論・執筆活動を行う。近著に「進路図鑑2010」(光文社)など。

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