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枝川二郎のマネーの虎
郵政民営化ストップは将来に禍根を残す

   民主党政権と亀井静香郵政改革相のもとで郵政民営化の流れが完全にストップしたようだ。しかし、郵政民営化をここで止めると将来に大きな禍根を残すことになるだろう。日本郵政グループには金融(銀行と保険)と郵便の集配業務という2つの側面があるが、今回は後者を考えてみたい。

   郵便の集配はサービス業である。質の高いサービスを常に提供し続けるためにも、民営化は必要と考える。それは顧客からの要求と環境の変化に対応する不断の経営努力とコスト管理、そしてイノベーションがいまの郵便事業には欠けているからで、これらは一般に厳しい競争環境がもたらすものである。

国営すればサービスは劣化し値段は上がる

   たとえば、コンビニエンスストアやガソリンスタンド(GS)、宅配便・・・これらは社会インフラとして不可欠な業務で、全国に展開して質の高いサービスを提供してくれている。コンビニやGSが郵便配達よりも重要性が劣るということはない。むしろ、いまや家庭向け郵便物の大半は企業からのダイレクトメールか年賀状なのだから、ライフラインとしての重要度からいったらGSなどのほうが、よほど上位なのであろう。

   GSは最近の原油価格の乱高下や不況の煽りで経営が厳しくなり、閉鎖が増えている。過疎地では近隣のGSが閉鎖されて、一番近いスタンドまでかなりの距離を走らないとならないようなケースが問題視されている。

   そこで、過疎地のGSは地域主導で打開策をさぐる動きが出ている。これは「民間でできないことは政府や地域で責任を持つ」という原則にそった動きで、逆に間違っても「全国のGSを国営化して一体に運営しないといけない」などといった主張を展開する人はいない。仮にGSが役所の出先機関になったとしたら、車内のゴミを捨ててくれたり、灰皿を掃除してくれたりするような丁寧できめ細かなサービスはなくなるだろうし、競争がなくなって値段も上がっていくことが容易に想像できる。

郵政事業への「厳しい目線」捨ててはいけない

   郵便配達の本質は個々の家庭向けの物流サービスにある。宅配便や新聞配達などを含めて、それらを総合的にどのように持っていくのが最も合理的なのか、そこから検討すべきであろう。

   たとえば、郵便配達を朝のゴミ収集の時間程度に早めてくれたら出勤前に手紙を読めるという人も少なくないだろう。あるいは早朝に新聞と郵便物を一緒に配達してくれれば配達の手間が一回分減るなどと考える人もいる。こういうアイデアは民営化すれば必ず俎上にのぼるところだと思う。

   コスト面でも、現在はがきと封書の基本料金はそれぞれ50円と80円。これは広い国土のアメリカ郵便料金よりもずっと高い。1981年初頭にそれぞれ30円と60円だったのに、それ以降はインフレ率を遙かに上回る率で値上げされた。もちろん値下げなど思いもつかない。いまはただでさえネットに押されているのに、これでは郵便業の衰退をさらに進めるだけであろう。このあたりの費用対効果の検討も重要だ。

   民営化の過程でわれわれはいくつかの改善の成果をみた。つまりファミリー企業の問題が明らかにされたり、銀行の為替取引とオンラインでつながったり、窓口のサービスが改善した・・・といった点だ。しかし、さらに改善すべき点も山ほどある。

   ともあれ、大事なことは国民が「お上のやることは仕方ない」というあきらめの気持ちを捨てることだ。「1円でも安いスーパーで買い物をする」という消費者の厳しい目線を捨ててはいけない。もしも郵便が国営事業として踏みとどまったとしても、そのあり方は国民みんなのために、せめて「仕分け会議」のように公開で議論すべきだろう。


++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして活躍。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。