米国の新聞が「読者離れ」を起こした理由
石川幸憲氏に聞く「キンドルの衝撃」(上)

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   米国の新聞界が大荒れである。購読部数と広告が激減し、廃業する新聞社も続々と現れている。それを象徴するように現れたのが、Kindle(キンドル)やiPad(アイパッド)などの新しい電子リーダーだ。

   米国在住のジャーナリストで『キンドルの衝撃』(毎日新聞社)の著者である石川幸憲氏に、米国の実情と日本が受ける影響を聞いた。

調査報道は役に立たなかった

『キンドルの衝撃』を著した石川幸憲氏。米国のメディア事情に詳しい
『キンドルの衝撃』を著した石川幸憲氏。米国のメディア事情に詳しい

――長年にわたり米国のメディア事情を幅広く見てこられて、最近の米国の新聞社の経営状況は相当悪いのですか

石川 有力紙のみならず新聞チェーンを含め、非常に厳しいです。特に2008年の金融危機以来、赤字の新聞社が多く、ニューヨーク・タイムズ(NYT)でも2009年の10~12月期に2期ぶりに黒字が出たところです。その内容を見ると、紙の広告収入は前年比で20%ダウン。リストラを急ピッチで進め、人減らしやコストカットによって、なんとか黒字に持っていこうとしているのが今の状況です。
   記者の給与にも影響が出ており、NYTも去年下げました。人数も減って、全米で編集に関わる記者の数は顕著に減っています。辞めた記者たちは、若い人たちはまだいいですが、20年、30年選手となると、他の業種に乗り換えるといっても、つぶしが利きません。

――記者たちに危機感がなかったのでしょうか

石川 米国のジャーナリズムにおいては「編集権の独立」、経営や営業と編集は全く別であるというのが原則です。真空地帯が編集局にあって、アンタッチャブルな存在になっていた。自分の書く記事が会社の業績にどう影響を与えるかということは、二次的な問題になっている。「売れる記事を書く」なんていうことは、個人的な問題としては考えることがあっても、職業として言う人は編集局にいない。
   この文化は、なかなか変われないし、ある意味でアレルギー体質が出来ていますから、広告や営業の部門から何か口を挟まれると、蜂の巣をつついたような騒ぎになる。

――著書『キンドルの衝撃』の中でも、ワシントン・ポストのウォルター・ピンカス記者が、調査報道は役に立たなかった、自己満足だったという発言をしています

石川 ピンカス氏の指摘は、読者が忙しくて新聞を読む時間がなくなり、読む人や興味が変わっているのに、新聞が変わっていないということだと思います。米国人が新聞を読む平均的な時間は、1日あたり23分くらいだそうです。ひとつの記事ではなく、すべての紙面を読む時間にそれくらいしか割けない。その中で長大な特集記事を書くことは、確かに素晴らしいことなのかもしれないけど、本当に読者に読まれているのかということは、彼が常々疑問に思っていたと言うんです。
   ジャーナリストとしては、自分だけの部屋にこもって、時間と金を自由に与えられて好きなテーマを書けと言われれば、これはいいですけど。

アイデアはすべてあったが実行できなかった

――読者層や興味関心も変わった

石川 女性読者が非常に増えて、半分以上を占めるようになっている。女性がファッションやライフスタイルばかりに興味を持っているわけではありませんが、これまで男性社会で作られ受けた硬派なコンテンツが受けるかどうか。また、たとえば育児の問題、共稼ぎのスタイル、レジャーなど、いまの米国人にとって共有しているテーマはあるはずなのです。それに対して、新聞が必要な情報を提供してこなかったという空回りの状態が起こっている。
   ピンカス氏は77歳、いまでも毎日記事を書いていますが、こういった批判をしたときには業界からはだいぶ反発がありましたよ。「爺さんが何を言っているんだか」とね(笑い)

――新聞社がウェブに進出するときにも問題があったと書いていますね

石川 防衛関係者などに使われていたインターネットが、90年代はじめに民間に開放されたとき、これをどう使っていけばいいのかという答えを誰も持っていませんでした。「何かすごそうなものが出てきた」という反応だったと思います。
   そうした中で新聞社は、まず飛び込んでみたわけです。最初に考えたのは、新聞のポータルサイトを作ろうということでした。NYT、ロサンゼルス・タイムス、ワシントン・ポストなどの有力紙と新聞チェーンを含む9社が、NCN(New Century Network)という共同プロジェクトを立ち上げた。各紙の新聞情報を集め、読者はそこにいけばその日の情報がすべて手に入るという構想で合弁会社を作った。95年の話です。

――いまでいうアグリゲーター(情報を集約して読者へ仲介する役)、ヤフーやグーグルがやっているポータルですね

石川 しかし96年にNYTが自社サイトを立ち上げ、記事の掲載を始めるなど、各紙がそれぞれ独自路線を走り始めます。大手の新聞社は「自分たちの記事ばかりが使われて損じゃないか」と考え、それだったら自分のサイトで見せようということになった。一方で新聞チェーンも、大手の記事ばかりが目立って、「自分たちに出番がない」ということで引いてしまった。結局、統一したポータルを作るところまでいきながら、最終的には難破してしまった。それ以降、新聞社は自社サイトをポータル化し、すべての情報を流し込むことに努力することになります。
   それと同時に起こったことは、ヤフーニュースやグーグルニュース、MSNニュースなどの検索エンジンがポータル化し、いろいろなニュースを取り込んでいったことです。その後、検索型ポータルと新聞型ポータルが対立することになります。

――新聞社は、いまではコンテンツ・プロバイダーとして、アグリゲーターとしての検索ポータルを批判しているわけですが、NCNがこれを先取りしていたわけですね

石川 新聞業界は、独禁法の問題もあって、つねに敵対しているのが健全と思われていた。特に編集サイドとしては、つねに競争相手という見方をしていたんでしょうね。これがNCNを空中分解に追い込んだわけです。
   他にも、NCNにはアイデアがいろいろありました。たとえば米国では、求人や不動産などの広告を地域や目的別に分類した「クラシファイド」という広告が盛んで、現在では「クレイグスリスト」というサイトが多くの広告収入を得ています。実はNCNでもこれをやろうとした経緯があり、ものすごく成功した可能性もあったわけです。アイデアはすべてあった。でも、インプリメンテーション(実行)ができなかったんです。

に続く)


石川幸憲(いしかわ・ゆきのり)プロフィール

在米ジャーナリスト。1950年生まれ。上智大学卒業後、渡米。南イノリイ大学博士課程修了(哲学)。ペンシルベニア大学博士課程(政治学)前期修了。AP通信記者、TIME誌特派員、日経国際ニュースセンター・ニューヨーク支所長、日本経団連のシンクタンク21世紀政策研究所研究主幹を歴任。

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