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自然、石油、原子力・・・エネルギーも「ベストミックス」の時代
「オルタナ」森摂編集長に聞く

   従来の石炭や石油、原子力、水力に加えて、風力や太陽光発電などの自然エネルギーが台頭してきた。しかも家庭で発電できて、余った電力は売れるようにもなった。CO2削減が電力の供給システムや消費者の生活を大きく変えて、経済成長にも貢献する――。そんな期待について、環境とCSRのビジネス情報誌「オルタナ」の森摂編集長に聞いた。

マイ箸ではCO2削減に貢献できない

森編集長は、「エネルギーはベストミックスの時代」と語る
森編集長は、「エネルギーはベストミックスの時代」と語る

―― 消費者の環境意識が広がっていますが、家庭とCO2削減の関係をどのようにみていますか。

 エコバッグやマイ箸を使ってCO2を削減するという発想から、そろそろ、離れなければいけない。マイ箸を使っている人を最近よく見かけるが、それがエコでCO2削減に貢献できていると思うのは錯覚に等しい。日本人の環境意識が成熟するには、可視化しにくい家庭内消費エネルギーやCO2排出量を可視化する必要がある。
   たとえば2008年に起こった原油価格の高騰では、米国で1バレル147ドルの最高値を記録して、日本でもガソリン価格が1リットル200円台になったところもあった。ブラウン元英首相は「第3次オイルショック」と形容した。その後のリーマン・ショックの影響で値下がりしたが、あのまま原油価格が上昇し続けて、ガソリン価格が1リットル300円になったら、もうクルマ云々ではなくなり、経済活動や個人の消費行動そのものを見直す必要に迫られる。そういった危機感も環境問題に取り組むインセンティブとなる。

―― 一般に、日本は環境問題への取り組みが進んでいると思われていますが、それは間違いだと。

 その通りだ。政府は温暖化対策を個人の「良心」に委ね、有効なインセンティブを提供してこなかった。たとえば家庭ゴミ収集の有料化はゴミを減らす強力なインセンティブになるが、韓国ではすでに1995年に家庭用ゴミの完全有料化に踏み切っている。
   自然エネルギーの利用も対応が遅れている。米国のある化粧品会社では、電力は自然エネルギーでまかない、環境負荷が高いペットボトルは社員に使わせないことを徹底している。日本では2003年4月にRPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)が施行されたことで、電力会社に風力やバイオマス、太陽光発電などによる発電を、一定程度導入することを義務づけた。ところが、目標値があまりに低く、法的に達成してしまうとそれ以上のことはしない。日本は2014年度に1.63%の電力供給量を自然エネルギーでまかなうことになっているが、海外をみるとスウェーデンが50%、ドイツ45%、デンマーク30%、英国は20%を目標にしていて、とても比べものにならない。

―― なぜ、そのようなことになってしまったのでしょうか。

 高度経済成長期の成功体験や発想から抜け出せないでいることだ。電力会社は「いかに停電させないか」を命題に努力してきた。そのため、日本の送電技術は世界のトップレベルにある。しかし、化石燃料が枯渇することが見えているのに、原子力と石炭、石油対策には熱心で、自然エネルギーには目を向けなかった。
   米国は停電対策や自然エネルギーの安定供給を理由に、ITを用いて効率化する「スマートグリッド」を、110億ドルもの予算をつけて推進するが、日本の電力会社は原子力や石炭などの今ある電力と、風力や太陽光などの自然エネルギーをネットワーク(送電網)につなげると、「発電量が均一でなくなる」といって接続を嫌がっている。米国とは、考え方がまったく違う。

燃料電池でエネルギーの「地産地消」が可能に

―― エネルギーの生産と消費を小さな地域単位でとらえる「マイクログリッド」も注目されています。

 マイクログリッドは太陽光、風力、バイオマスなどの小型分散型エネルギーを結び、地域内で電力の需給バランスを調整するエネルギーの「地産地消」で、脱化石燃料対策として浮上してきた。
   一般家庭への普及を促すインセンティブとして、「売電」もはじまったが、日本の電力の買い取り価格は1キロワットあたり家庭用で48円、家庭外は24円と安い。また、買い取り方法も海外と異なる。たとえば、ドイツは家庭でつくった電力量をすべて電力会社が一たん買い取ってから、各家庭に再配分する。日本の場合は100の電力を家庭でつくっても、そのうち80の電力を自分で消費したら、残りの20しか買い取ってもらえない。
   マイクログリッドは、送電網の遠い過疎地などで有効との指摘もある。電力会社が今ある送電線をどう使うのかなど、インフラの活用もあわせて、考えどころだ。
   そうしたなか、石油会社とガス会社が組んで家庭への普及を図っている家庭用燃料電池には大きな期待を寄せている。ガスから水素を取り出し、空気中の酸素と化学反応させることで電気と熱を生み出し、CO2を40%削減でき、エネルギーのムダも減らせる次世代のエネルギー生産システムが燃料電池によって可能になった。家庭で今までどおりガスインフラを活用しながら、「地産地消」に貢献できる。
   ハイブリッドカーがすでに広い支持を得ているのだから、家庭で使うエネルギーも自然エネルギーや燃料電池をうまく組み合わせてハイブリッド化するところまで、あとひと息だろう。

―― 政府は環境対策(炭素)税の導入に前向きです。どのように見ていますか。

 スウェーデンでは、「低炭素社会は長期的な成長の前提条件」との明確な方針を打ち出し、1989年から2006年までの17年間に、CO2を9%削減。その一方で44%の経済成長を成し遂げた。環境問題は、「経済成長につながる」ことがポイントだ。
   スウェーデンの成功要因は、91年に導入した炭素税にあった。炭素税は化石燃料に含まれる炭素の量を基準に課税される仕組みで、家庭や運輸部門での排出量の削減に効果があったこと、またEUの排出権取引が動き出したこともあった。自然エネルギーの活用を促し、消費エネルギーの40%を、バイオマスを中心とした自然エネルギー(残りは原子力発電)でまかない、これを2020年までに50%に引き上げ、さらに25年までには化石燃料に頼らないエネルギー政策を確立するという目標を掲げている。
   日本でも炭素税の導入機運が高まっているが、欧州では化石燃料に由来するすべてのエネルギーに課税している。これをそのまま日本に持ち込むと、ガソリンから電気、ガスの価格なども上がって企業や国民への負担が重くなるとの指摘があるが、それは正確ではない。
   ここで問われるのは国がCO2削減のために、どこまで「本気」になれるのか、だ。炭素税を広く環境のために充てたり、ドイツや英国のように年金負担や社会保障の軽減に使ったりと、政府が炭素税の「使い道」で、国民にどのように理解を求めるのかも大事だが、その一方でCO2削減のために努力した企業や家庭が報われる制度であることも大切だ。
   いずれにせよ、炭素税が導入されれば、おのずと家庭のコスト意識が高まる。燃料電池などは初期投資のコストが普及の足かせになっていたが、エネルギー単価が上がることで投資コストが速やかに回収できるなど、プラスに働く。燃料電池の普及が加速し、多様なエネルギーを利用する「ベストミックス」の時代になることを期待している。

森 摂(もり せつ) プロフィール
東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。流通経済部などを経て、1998年~2001年ロサンゼルス支局長。02年9月退社。同年10月、ジャーナリストのネットワークであるNPO法人ユナイテッド・フィーチャー・プレス(ufp)を設立、代表に就任。06年9月、株式会社オルタナ設立に参画。雑誌「オルタナ」編集長に就任、現在に至る。
主な著書に「ブランドのDNA」(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年10月)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、07年3月)がある。