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足の細胞を心臓にペタっ 阪大が心不全治療で成功重ねる

   自分の足の筋肉細胞を培養してシート状にして心臓に張る――こんな再生治療で日常生活を送ることができるまでに心臓病患者が回復している。大阪大の澤芳樹教授らの取り組みだ。

   2010年夏、59歳と62歳の男性患者2人が相次いで手術を受けた。ともに心筋梗塞による虚血性疾患で、心臓機能が健康な人の4分の1から3分の1まで低下していた。治療は成功し、近く退院できるまでに回復した。この治療法は「自己骨格筋筋芽細胞シートを用いた心不全治療」だ。

虚血性患者に対して初めて、累計で8人

   澤教授によると、手術はこんな風に行われた。まず患者自身の太ももの筋肉細胞を培養してシート状にする。シートは直径3~4センチの円形だ。これを4層に重ねて心臓の5、6か所に特殊なノリ状のものをつかって貼り付ける。

   その後、シートから分泌されたたんぱく質などが心筋の再生を促し、2人とも日常生活ができるまでに良くなった。シートが心臓の細胞と一体化するわけではないが、取り除く必要もないそうだ。

   なぜ使われるのは太ももの細胞なのか。基礎実験や臨床研究の末、この筋芽細胞に心筋を再生させる力があることが分かったからだが、筋肉細胞を取った後の太ももの機能へのダメージ・影響が他部位の場合より少ないという側面もある。

   今回の治療は、虚血性の患者に対して初めて行われたもので、先日、公表された。「自己骨格筋筋芽細胞シートを用いた心不全治療」は07年、澤教授らが世界で初めて成功させた。初成功のときの患者は補助人工心臓をつけていた。以来、補助人工心臓をつけていない(拡張型の)患者でも成功し、今回の補助人工心臓をつけていない患者2人を含め累計8人を治療している。

60歳以上や子どもの患者の治療法としても期待

   心臓病の外科治療には、ほかに心臓移植などがあるが、日本循環器学会は「(移植手術を受けるのは)60歳未満が望ましい」との「適応条件」を設けている。「細胞シート法」なら移植よりは比較的体への負担も少ないため、60歳以上の患者への新たな治療法としても期待される。今回も62歳の患者で成功している。勿論60歳未満の患者にも有効だ。

   しかし、澤教授によると「完全に心臓移植に取って代わる、という治療法ではない」。心筋の回復能力などにより「細胞シート法」に適した患者とそうでない患者がいるそうで、「夢の万能の治療法」とはいかないようだ。

   それでも、心臓移植にはドナー(提供者)不足、補助人工心臓には合併症などの問題がある中、将来的な子どもの患者への適用の可能性を含め、「(細胞シート法の)可能性を広げていきたい」(澤教授)と期待を寄せている。