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広島市長、マスコミ報道に不満? ユーチューブで「退任表明」の真意

   次期市長選への不出馬を表明した広島市の秋葉忠利市長(68)が退任会見やインタビュー取材を拒否し、その代わりに動画サイト「ユーチューブ」に「不出馬会見」と称する動画を公開した。市長はその意図について説明しておらず、波紋が広がっている。

   秋葉氏は大学教授や衆院議員(社民党)を経て1999年1月、広島市長に初当選。3期目の任期は2011年4月に満了することから、4期目に出馬するかどうかに注目が集まっていた。そんな中、11年1月4日の仕事始めのあいさつで、

「(4月)7日で市長としてのピリオドを打ち、3期の間、市民の皆さんから託されたたすきを新たなエネルギーと想像力の持ち主に引き継いでもらいたい」

と、突然の不出馬表明が飛び出した。報道陣は、退任の理由や後継指名について質問をぶつけたが、秋葉市長は答えなかった。

   このことから、市政記者クラブは、記者会見を開くように求めたが、秋葉氏は市の広報課を通じて、

「会見は開かない。然るべき時に、文書を出す」

と回答した。 同日夕方に、広島テレビ(日本テレビ系)のニュース番組「旬感☆テレビ派ッ!」に生出演したものの、それ以外の個別インタビューは、全て断った。

14分50秒、カメラ目線でひたすら語りかけ

秋葉市長は、「不出馬会見」と題した動画をユーチューブにアップロードした
秋葉市長は、「不出馬会見」と題した動画をユーチューブにアップロードした

   翌1月5日にも、記者クラブは再び会見の開催を要請。午後になって事務方が市長に確認すると、市長は

「昨日(1月4日)、ユーチューブに動画をアップロードしたので、そちらを見て欲しい」

などと話したという。市長が具体的な動画のURLを示した訳ではなく、市の職員がサイトを検索して動画を発見。15時頃になって、発見した動画のURLを記した紙が記者クラブ各社に配布されたという。

   動画は「秋葉忠利広島市長不出馬会見」と題したもので、背広姿の秋葉氏が14分50秒にわたって、ひたすらカメラ目線で語りかけるという内容だ。動画は、1月4日に「yasuwo53」を名乗る利用者がアップロード。広島市の広報課では、

「動画は市長がプライベートで出したもので、市として出しているものではない」

と話しており、「yasuwo53」の正体は不明だ。さらに、動画は左側のスピーカーからしか音が流れないという、技術的にお粗末なものだ。

   秋葉氏が動画の中で明らかにしたところによると、箱根駅伝のテレビ中継を見て、「たすきをつなぐことの大切さ」が心に響いたといい、

「広島市の未来と、箱根駅伝がつながったと思う。これが潮時なんだ。たすきをつなぐということがいかに大事なことなのかということを改めて感じました。何か目の前がパッと明るくなるような、目からウロコがおちる感覚」

などと不出馬の理由を説明したが、後継指名などについては触れていない。

「マスコミの皆さんには正確な報道を…」

   異例の「ユーチューブ会見」に踏み切った理由を秋葉氏は明らかにしていないが、自分の発言が意図通りにメディアの取り上げられないことが背景にあるとの見方もある。例えば、10年12月17日の定例会見の中では、五輪誘致などの、次期市長選で争点になり得る政策について、

「マスコミの皆さんにこれだけ話しても十分に伝わらないというのは、マスコミの皆さんにもう少し正確な報道をしていただきたいなということをお願いしてるつもりでもあるんですけれども、そういった過程を経ないと、なかなか次の段階はどうするかということにはならないんじゃないかと思っています。まずは事実を正確に伝える。皆さんにはそれを誤解をあおるんではなくて、正確な理解を多くの皆さんがしてくださるような形での努力をさらにお願いしたいということを申し上げているつもりです」

と、マスコミ批判を展開しているほか、05年4月の会見では、自らについて書かれた記事について、

「あなたマスコミでしょ。ああいう公的なところで、公開の場で言ったことは正確に引用してください。そこにいたわけでしょ。それがなぜ不正確なことを言うのですか」

と、いらだちを見せたこともある。

   だが、広島市のウェブサイトには、質疑応答を含めた会見録や動画がノーカットで公開されており、世界中から市長の発言は未編集の状態でアクセス可能だ。今回のユーチューブ会見で変わったことは「市長が記者の質問を受けなくてよくなった」ことしかないという見方もあり、「質問されていることを避けている」との批判も呼びそうだ。

   現在、月2回のペースで行われている定例会見については、「しないということにはなっていない」(広島市広報課)として、予定通り続けられる予定だ。

   なお、似たようなケースとしては、佐藤栄作元首相が1972年に開いた退陣会見の冒頭「偏向的な新聞は嫌い。直接国民に話したい」と述べ、新聞記者が発言に抗議して退席。がらんとした会見場で、テレビカメラに向かって演説したことがある。