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原子力と放射能の基礎知識/連載(4)被ばくするとはどういうことか
日本原子力学会異常事象解説チーム・二ツ川章二管理本部長(日本アイソトープ協会)

   日本原子力学会の異常事象解説チームの連載第4回は、日本アイソトープ協会の二ツ川章二氏が、被ばくするとはどういうことかを解説する。

――人体が放射線にあたることを被ばくといいます。私たちは大地、食物、宇宙、空気から絶えず自然放射線による被ばくをしています。少量の塩分は人体に害を及ぼしませんが、大量に摂取すると害になるのと同じように、自然放射線レベルでは害とならない放射線被ばくも大量では人体へ悪影響を与えます。

   放射線被ばくには、外部にある放射性物質からの放射線による外部被ばく、体内に取り込まれた放射性物質からの放射線による内部被ばくがあります。

被ばく線量は距離の二乗で急激に少なく

   通常の人工放射線による被ばくは主に外部被ばくです。放射性物質からの距離が離れることによって被ばくする線量は距離の二乗で急激に少なくなります。身体に当たった放射線は物質と相互作用しエネルギーを失い消滅します。当然、放射性物質が無くなると被ばくは生じません。

   食品等によって体内に取り込まれた放射性物質からの放射線により内部被ばくを生じます。放射性物質が体内に存在すると内部被ばくが継続します。体内の放射性物質は放射性物質の固有の半減期で減衰するとともに人体の尿・汗等の代謝機能によって体外へ排泄されることによって減少します。

   福島第1原子力発電所の事故処理にあたっている人たちは、原子炉周辺に存在する大量の放射性物質からの放射線によって被ばくしています。原子炉周辺の放射性物質から離れる、また、放射線を遮るための遮蔽材を用いる、さらに作業時間を少なくする等によって、できるだけ被ばくする線量を低減しています。

   一方、原子力発電所で作業している以外の一般の人達は、原子炉内に存在する放射性物質からの放射線で被ばくするわけではありません。原子炉からガスとなって放出された放射性物質を含んだ空気の塊(雲)が風によって運ばれ、空気中に漂ったり、地面に落下したりした放射線物質からの放射線で被ばくします。体の周りに漂う放射性物質からの放射線で被ばくするため、距離、遮蔽によって簡単に防止することはできません。

   屋内退避指示の地区で室内へ退避するのは、この放射性雲からの放射性物質を室内に取り込まないことにより被ばくする線量を低減させるためです。放出された放射性雲は拡散しますので、発生する場所から離れると放射性物質の濃度は急激に薄まります。

雨や雪の影響で放射線量が増加

   風の強さ、風向き等の天候によって放射性雲は様々な動きをするため、放射線量は時々刻々と変化します。また、雨や雪が降ると空気中に漂っていた放射性物質が雨や雪と共に落下してきますので放射線量は増加します。放射線量が通常より高い地域で、雨や雪の日に傘をさす、また、帽子をかぶることが奨励されているのは、落下してくる放射性物質を身体に付着させないためです。

   放射線の種類や放射線が当たる部位に関係なく、放射線が人体に与える影響の程度を測る単位がシーベルト(Sv)です。その1000分の1がミリシーベルト(mSv)、100万分の1がマイクロシーベルト(μSv)です。私たちは大地、食物、宇宙、空気中ラドンからの自然放射線によって世界の平均で毎年2.4ミリシーベルトの被ばくをしています。また、東京からニューヨークまで航空機旅行をすると片道で約0.1ミリシーベルトの被ばくをします。

   通常より高い値として報道される0.1マイクロシーベルト/時とはその時刻の放射線量を1時間あたりの放射線量率に換算したもので、その場所の放射線量率が1年間同じ値であったと仮定して、その場所に居続けると0.876ミリシーベルトになるという値です。実際は、上述のように放射線量は絶えず変化しています。日本における1年間の大地からの放射線量の平均は0.4ミリシーベルトですが、ラジウム温泉が多いイランのラムサール地方の平均は10.2ミリシーベルトと報告されています。自然の環境でも非常に高い放射線量のところがあり、そこで生活している住民の健康に特別な影響は見いだされていません。