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名門・ドジャース経営破綻 日本人大リーガーにも多額の「未払い金」

   大リーグの名門、ロサンゼルス・ドジャースが経営破綻し、その余波が日本人大リーガーを襲っている。多額の未払い金が明らかになったのだ。この前代未聞の出来事は、日本球界の「大リーグ神話」に冷や水を浴びせた。

オーナー夫妻の離婚騒動で泥沼化

   ドジャースが日本でいう民事再生法を申請したのは2011年6月27日(現地)のこと。昨年あたりから経営悪化がうわさされ、今年4月に大リーグの監視下に置かれた。

「乱脈経営の結果」

   米国のマスメディアはそう見ている。ドジャースはフランク・マッコート氏とその夫人が共同経営者。その二人が離婚することになり、財産分与争いでドジャースが巻き込まれ、泥沼化した。

「マッコートはドジャースの放映権料で事態を収拾しようとしたのだが、土壇場で失敗に終わった」

   大リーグ関係者はそう解説する。FOXスポーツと総額30億ドル(約2400億円)でテレビ放映権の契約を進めていたのだが、大リーグのバド・セリグ・コミッショナーが「契約を認めない」との決定を下した。

「契約料がオーナーの私的目的に使われる恐れがある」(コミッショナー)

   大リーグは球団の管理責任者に駐日大使を務めたことのあるトーマス・シーファー氏を選んだ。

黒田に3億6000万、石井一にも2億7000万円の未払い

   この騒ぎで真っ青になったのがドジャースの選手たち。球団が裁判所に提出した破産申請書に書かれた年俸の未払い金のうち、100万ドル(約8000万円)を超える選手が13人もいた。

   その中の一人が日本人大リーガーとしてエース格の黒田博樹投手。地元メディアによれば、黒田には450万ドル(約3億6000万円)の未払い金があるという。「驚いた」と戸惑った表情を見せ「試合に集中する以外にない」と話すのがやっとだった。

   大リーグのマルチ契約はよく知られるところだが、報道される大金が即座に支払われるわけではない。年金方式も取り入れられているから、10年、20年に渡って支払われることがほとんど。つまり現役を引退後も受け取ることになる。

   いま西武ライオンズで投げている石井一久も、2004年まで在籍したドジャースとの間に330万ドル(約2億7000万円)の未払い金が残っているというのだ。

「こんな大都会のチームが破綻するなんて…。信じられない思いだ」

   ドン・マッティングリー監督も苦渋の表情だった。全選手の声を代弁している。日本球界には大リーグ志望の選手が多い。しかし、ドジャースほどのチームでも破産の憂き目に遭う。日本選手にとっては「青天の霹靂」のような事実だろう。

「健全経営」のオマリー家が手放して以降の凋落

   ドジャースは黒人初の大リーガーとして知られるジャッキー・ロビンソンを誕生させ、本拠地をニューヨークのブルックリンから気候のいい現在のロサンゼルスに移すなど、将来を見据えての経営を絶えず考えていた。父子で50年近く所有することになるオマリー家が経営に携わってからは「大リーグで最も健全経営の球団」といわれたほどクリーンで家族的な品のいいチームだった。日本人大リーガーを加速させた野茂英雄が契約したのは息子のピーター・オマリー・オーナーの時代、1995年のこと。

   1998年、オマリーは金がかかりすぎる球界に見切りをつけた。「メディア王」ルパート・マードックに売却、多額の利益を手にした。マードックは球団経営を「無茶苦茶にした」ことで地元から非難を浴び、ドジャー・スタジアムからファンの足が遠のいた。そして今回のマッコート事件となった。

   現在、ワシントンを本拠とするナショナルズの前身は、カナダのモントリオール・エキスポズである。エキスポズも経営破綻し、コミッショナー預かりの末に行き場所が決まった。日本では「私鉄の雄」といわれた近鉄バファローズが経営に行き詰まり、オリックスと合併の形をとった後、新規参入として楽天イーグルスが決まった。

「球団経営は実業家にとって最高のステータス。しかし、球団は金食い虫の典型」

   こんなかつての経営者たちの言葉がよみがえってくる。日本のプロ野球もそういう実業家が生まれては消えた。(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)