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野田演説で「どじょう異変」 相田本増刷、観光やペット業界も期待

   「ドジョウ」に注目が集まっている。野田佳彦・新首相が民主党代表選の演説で、ドジョウを扱った相田みつをさんの作品を引用したからだ。相田さんの作品集は急きょ増刷が決まり、ドジョウをめぐる観光や養殖、ペット業界にも期待が広がっている。

   「どじょうがさ 金魚のまねすることねんだよなあ」。相田さんのこの作品を「大好きな言葉」として紹介した野田氏は、自身をドジョウにたとえ、「(ドジョウは)金魚のまねをしてもできない。泥臭く国民のために汗をかいて(略)ドジョウの政治をやり抜きたい」と述べた。2011年8月29日の代表選投票前の演説でのことだ。

相田みつを美術館では、急きょレプリカ展示

相田みつをさんの作品集「おかげさん」。「どじょうがさ」が収録されている(ダイヤモンド社提供)
相田みつをさんの作品集「おかげさん」。「どじょうがさ」が収録されている(ダイヤモンド社提供)

   野田氏の演説は好評で、「苦戦」との下馬評を覆した勝因だ、との見方すらある。

   野田氏が引用した作品が入っている作品集「おかげさん」(ダイヤモンド社)は、演説後に全国の書店から注文が相次いだ。8月30日に5000部増刷が決まり、31日にはさらに上澄み分の増刷が始まった。担当者によると、「おかげさん」はこれまでに累計25万部が売れ、同社が扱う約30冊の作品集の中でも比較的よく売れたものだ。しかし、最近では落ち着いていただけに突然の再ブレイクだ。

   相田さんはこの作品には題をつけなかった。ダイヤモンド社では「どじょうがさ」との見出しで紹介している。1987年末に「おかげさん」を出版した際に書き下ろしたものだ。作品としての知名度は低く、相田さんの作品がかなり好きな人でないと知らないだろう、という。

   相田みつを美術館(東京都千代田区)では、演説翌日の8月30日には、平日としては普段の1.5倍の約1500人が訪れた。31日も前日を上回る勢いで入場が続いている。

   「どじょうがさ」の作品は当初、展示していなかったため、「どこに置いてあるのか」と問い合わせる入場者が続出。このため、31日からレプリカを記念撮影コーナーに置いた。オリジナルは9月13日以降の新展示期間に登場させる方向で検討している。相田さんの作品は、額装されたものだけで約700点にのぼるが、同美術館によると「どじょう」が登場するのはこの作品だけだという。

鼻息荒い「どじょうすくい」の里

   「こんなにドジョウに注目が集まった今、無駄にする手はない」と鼻息が荒いのは、「どじょうすくい踊り」の民謡「安来節」で知られる島根県安来市の観光協会だ。市内では、ドジョウ養殖にも力を入れ、ドジョウ料理を出す店もある。

   演説後急に増えた問い合わせの多くはマスコミからのものだが、今後、観光客からも注目が集まる、と期待している。もっとも、「どじょう観光が盛り上がる前に野田さんの失政で『やっぱりドジョウより金魚がいいや』ということにならないか、少し心配です」と早くもヒヤヒヤしている女性職員もいた。

   「野田さんはドジョウを泥臭い、と言ったけど、食用は泥臭くないどころか、出荷前は水草をえさにするため良い風味がある」と解説するのは、岡山県の備中どじょう生産組合の井上高行代表(56)だ。

   ただ、野田氏の「どじょう演説」には「ドジョウのイメージを使ってうまいこと謙虚さをアピールしたな」と厳しい見方を示す。ちなみに養殖ドジョウは食用だけでなく、環境改善のために田んぼなどに放流する用途での注文も多いそうだ。簡単にドジョウ人気が高まるとも思わないが、「(注文が)増えれば勿論うれしい」。

   東京都台東区の老舗ドジョウ料理店「駒形どぜう」の女性従業員によると、今のところお客さんが急に増えた、といった動きはないそうだ。

「どじょう演説」は輿石氏への融和メッセージ?

   「ドジョウはすでに、ペットとして人気者です」と話すのは、都内の熱帯魚ショップ「トロピランド小平店」の男性担当者だ。1日に10~20匹は売れている。

   もっとも、純粋に観賞用としてドジョウを飼う人は1~2割程度で、多くは金魚などを飼う際、水槽の底に残るえさを食べて掃除してくれる存在として買っていく。「今後、多少は(需要が)増えるかもしれませんね」。

   ドジョウにも種類があり、一般的なシマドジョウはおとなしいが、フクドジョウなどは気が強く、一緒に水槽に入れた金魚のしっぽをかじることもあるそうだ。

   野田新首相は、代表選では敵に回った小沢一郎・元代表に近い輿石東・参院議員会長を幹事長に起用した。党内融和を前面に出したように見えるが、その姿勢が本物なのかどうか、党内で様々な憶測も流れている。「野田どじょう」は、おとなしい方なのか、それとも実は「金魚のしっぽをかじる」タイプなのだろうか。

   野田氏が引用した「どじょう」の言葉は、輿石氏の紹介で知ったもので、「どじょう演説」は輿石氏への融和メッセージだったらしい。「泥臭い」というよりは「生臭い」エピソードだ。