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高橋洋一の民主党ウォッチ
窓際公務員に高給保証 野田政権「行政改革」の正体がこれだ

   増税の前に、デフレを脱却することと行政改革をやることは絶対に必要だ。今回は後者に絞って検討したい。

   代表戦での野田佳彦氏の『政権構想』では、「行政改革の断行」や「公務員制度改革の実現」を柱として明記している。震災後に官房長官の兼務となっていた行政刷新担当大臣も復活した。

赤恥ものの「経産官僚焼け太り戦略」

   ただ、これが本気なのか、増税一色と見られることを避けるためのポーズに過ぎないのか。それは次のチェックポイントをどのようにクリアするかにかかっている。

   まず、実効性あるムダ削減をどうやって進めるのか。

   行政改革の中には、「特会仕分けの成果を踏まえた特別会計改革法案を次期通常国会に提出」という文言が盛り込まれている。

   しかし、2010年10月の特会仕分けで「廃止」とされたのは、貿易再保険特会などわずか3特会に過ぎない。しかも、貿易再保険特会は、「廃止」とはいっても、事業をそのまま独立行政法人に移管するだけで、経産官僚の焼け太り戦略に見事に引っかかった、赤恥ものだ。

   「事業仕分け」は、すでに限界が露呈した。仕分けで「廃止」や「凍結」となっても、その後いつの間にか復活したり、同種の事業として再生したりするケースが少なくないことは、すでに明らかになっている。

   一例が、2009年事業仕分けで凍結されながら、野田財務大臣(当時)のもとで再開決定された「公務員宿舎建設」(朝霞宿舎は11年9月1日着工)である。総事業費105億円で、被災者支援より先に行うところが、何とも政治的には痛い話だ。

   こうした事例を放置して、『政権構想』にあるように単に「仕分けを継続・強化」していても、増税の前のポーズでしかない。

民間なら給料半減なのに…

   次に、公務員制度改革では、民間並みの人事制度への改革ができるのかどうか。

   かつて、福田康夫内閣時に与野党合意で成立した国家公務員制度改革基本法の考え方は、「民間並みの人事制度に改め、その代わり、労働基本権も付与」ということだった。ところが、菅内閣で提出された政府法案では、民間並みの人事制度への改革は置き去りに、労働基本権の付与だけを進めようという内容だ。

   「民間並みにせず公務員は身分保障」という前提で考えているから、天下りに関しても、天下りをなくす以上、役所の中で幹部並みの待遇で処遇するポストを作らないといけないなどという発想も出てくる。

   野田氏の『政権構想』には、まさにこの発想に基づく「高位スタッフ職の整備」というプランが出てくる。これは天下りは認めないが、窓際でも高給公務員にしておくというものだ。民間なら給料半減で嘱託かなんかのところを、「高位スタッフ」というのだから、公務員の自己保身はすさまじい。もし野田政権がこんなことを本気でやろうとしているなら、改革は期待できない。

   余談だが、この『政権構想』の「高位スタッフ職の整備」という項目のところ、段落がずれていて、ワープロミスがある。よほど焦って挿入したようだ。窓際公務員をきちんと高給で処遇するという内容なので、国民にとってはそれほど緊急性はないが、官僚を大切にする野田総理には重要なことだったのだろう。

   公務員制度改革に関連するが、経産省官房付の古賀茂明氏がとうとう辞めるようだ。古賀氏は、私らとともに「民間並みの人事制で労働基本権付与」の公務員制度改革を行ってきており、知識・経験ともに最適な人物である。しかし、野田政権が考えている公務員制度改革は「民間並みにせず公務員は身分保障」なので、古賀氏は不要ということなのだ。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。