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山崎、田口、GG佐藤も戦力外 「老いたスター選手」にクビの嵐

   元大リーガー、元本塁打王が相次いで「戦力外通告」――。プロ野球は10月になると2つの顔を見せる。表の顔はペナントレースの大詰めと日本シリーズを含むポストシーズンで盛り上がる一方、裏ではクビの嵐が吹く。

球団は「老兵」切って将来性のある若手に投資

   ともに42歳のスター選手が「来年、君は必要ない」と通告された。楽天の4番打者を務めた山崎武司、オリックスのいぶし銀として活躍した田口壮の二人だ。

   山崎は2011年10月9日のことだった。球団は、現役を引退してコーチになってほしい、と要請。今シーズンは打率2割2分7厘にとどまり、もう戦力外ということだが、断った。「心の中の火を消そうとしたが、消えなかった」と、現役続行を明確に。つまり楽天を去り、新天地を求めるということである。

   その前の5日、田口が同じ目に遭っていた。キャンプで痛めた右肩がたたり、今シーズンは62試合しか出場できなかったが、「手術するつもり」と、現役への意欲を示した。

   両選手の長年の実績は誰もが認めるものだ。

   山崎は愛工大名電高から中日入りし、1996年に本塁打王。オリックスを経て楽天に移り、07年に43本塁打、108打点で二冠を獲得。09年には39本塁打、107打点をマークしてチームを初めてクライマックスシリーズに進出させる「打」の原動力となった。田口は関学からドラフト1位でオリックス入団(1992年)。イチローとともに優勝に導いた。渡米してカージナルスとフィリーズ在籍時代にワールドシリーズを経験している。

   球団は年齢を考え潮時を見計っていた。楽天もオリックスも来季に向けて建て直しが急がれるチーム。将来性のある若手に投資するのは経営の上でも当たり前のことである。山崎は今季、2億5000万円の年俸。「老兵」にこれだけの値をつける球団はもうない。

   そのほか、毎日のように「戦力外選手」が発表されている。西武のGG佐藤もその一人。マッチョな体、パワフルな打撃はファンを喜ばせた。五輪代表のメンバーでもあった。33歳の働き盛りなのだが、肩の故障から今回の措置となった。

   ロッテから切られた那須野巧は大学No.1左腕として知られた。05年、日大から自由枠で横浜入り。しかし、後に「裏金問題」で批判にさらされた。入団の際、契約金の最高標準額1億円をはるかに上回る5億3000万円が支払われていたことが発覚。年俸も新人上限の2倍となる3000万円だったことも公にされた。

   プロ野球界には「トラブルメーカーは大成しない」といったジンクスがある。那須野はまさにその通りで、ロッテに移籍したものの素質は開花せず、結局期待を裏切ったまま戦力外となった。

   今年の秋は、中日落合博満、日本ハム梨田昌孝の両監督がペナントレース終盤で「今季限りで退団」を発表。優勝経験のある指揮官にしては中途半端な出来事だった。例年と比べると、早い人事である。随分とドライな感じがしてならない。

野球解説者の仕事は年々「狭き門」に

   このような戦力外選手は以後の進路を自由に選べる。現役続行希望者は、まず他球団からのオファーを待つ。ある時期までなければトライアルを受ける。それから国内の独立リーグもある。さらに外国の球界にチャンスを求める。今は米国(独立リーグを含む)をはじめ、韓国、台湾、ヨーロッパなどがある。

   ユニホームを脱ぐ場合は、球界に残るにはコーチやスカウト、打撃投手でなど裏方で新たに球団(国内独立リーグ、海外含む)と契約する。マスメディアの仕事も選択肢の1つ。ただしこれは競争が激しい。第1に知名度が大事。また、マスコミ各社では野球の扱いが減少しているという事情から、野球専門は年ごとに狭き門となっている。

   多くは一般社会で再出発となる。これがまた厳しい。なにしろ子供のころから野球漬けの選手がほとんど。プロスポーツ選手のセカンドキャリアづくりの活動がある、就職支援の会社で電話の受け答えから指導を受ける。不況の時代だけに簡単に就職できるものではなく、大部分は縁故に頼っているのが実情だ。

   プロで実績を残せなくてもプロ入りするときはみんな「地元のヒーロー」。そこに目をつける保険会社の代理店、コンビニ経営などの話があると聞く。それを実現するには自己資金が当然ながら必要となる。

   「プロ入りするとき、一生、野球を続けられると思っていた。戦力外通告を受けたとき、頭の中が真っ白になった。どうしていいか、本当に分からなかった…」。クビになった選手の多くはそう述懐している。これが10月の「裏の顔の奥底」である。

(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)