2024年 4月 24日 (水)

ソニー再生はトップの決断次第 エレキ中心に戻る手もある
ノンフィクション作家・立石泰則氏に聞く

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   テレビ事業を中心に経営不振が続くソニー。2012年4月1日には、現副社長の平井一夫氏が社長兼最高経営責任者(CEO)に就任し、新体制が船出する。

   大賀典雄氏、出井伸之氏、安藤国威氏、ハワード・ストリンガー氏と4代続けてソニーのトップを取材し、「さよなら!僕らのソニー」を上梓したジャーナリストの立石泰則氏は、「技術のソニー」が危機的状況にあると断じる一方で、復活のための処方箋は残されていると見る。

「変調」は大賀体制末期に始まっていた

長年ソニーを取材してきた立石泰則氏
長年ソニーを取材してきた立石泰則氏

――ストリンガー氏が会長兼CEOを退任し、代わって平井氏の新CEO就任が決まりました。今回のトップ交代をどうご覧になりましたか。

立石 ストリンガー氏は事実上の解任でしょう。もともと本人は、今年は会長定年となる70歳を迎えますので、そこでの退任を口にしていました。ところが年明けの1月7日、日本経済新聞朝刊で「ストリンガー氏CEO続投」が報じられ、私も新聞を見て驚いたほどです。しかし、テレビ事業は8年連続で営業赤字、最終損益も4年連続赤字で続投となれば、「その前にCEOとしての責任をとるべきではないか」という異論が出て来ざる得ない。特に続投に批判的だった一部の社外取締役は危機感を募らせ、最終的に取締役会での彼らの経営責任追及からストリンガー氏が退くことになったのです。
   振り返れば、ストリンガー氏をCEOにしたこと自体、無理がありました。前任の出井会長と安藤社長が同時に辞任したのは、エレクトロニクス(エレキ)事業不振の責任をとったものでした。当然ストリンガー氏はエレキ事業の再建が至上命題だったはず。ところが、日本に居を構えず米国から定期的に日本に通ってくるようなやり方では、再建など出来るはずがありません。しかもストリンガー氏は、コンテンツ事業には詳しくてもエレキ事業の経験も関心もない人です。社長に就任した中鉢良治氏も記憶メディア畑でキャリアを積んだとはいえ、テレビ事業をはじめエレキの本流ではありません。つまり、最初から無理な人選だったのです。

――かつてモノづくりの会社だったソニーが変わってしまった。変調はいつから始まったのでしょう。

立石 「大賀体制」の末期には、既に病根が出来始めていました。創業者の盛田昭夫氏が病から会長を退いて、大賀氏がひとりでソニーのかじ取りを始めることになると、少しずつ経営判断にミスを生じるようになります。アナログからデジタルへ、ネットワーク時代へ移る中でモノづくりに生じた変化を理解しきれなかったのが原因です。他方、社内では「派閥」が生まれ、昔からソニーを支えた個性的な技術者たちの居場所も失われていきました。
   大賀氏の後継者となった出井氏について言うと、社長時代の最初の5年間の功績は素晴らしいと思います。「デジタル時代に対応する企業として出直そう」と明確なビジョンを打ち出したことで、社員に安心感を与えました。2兆円の負債を減らしながら新製品の開発に取り組み、ヒット商品を生み出します。とくに大ヒット商品となったブラウン管式平面テレビ「WEGA(ベガ)」は、ソニー独自のデジタル高画質技術「DRC」の搭載が大きく貢献しましたが、その開発者である近藤哲二郎氏を見いだしたのも出井氏です。

コンテンツがあるがゆえに足かせとなった

――出井氏は目指したものは何だったのですか。

立石 「ハードを売った後から始まるビジネス」を掲げましたが、「なかなかうまくいかない」とこぼしていました。新しいビジネスに挑戦するなら、たとえハードの売り上げが好調でも「ハードの利益はもういい」と割り切るぐらいでないと成功しません。
   創業者グループの一員ではない出井氏は、数字で結果を出すことで社内の求心力を高めようとしました。そのため「3年後は利益を生む技術」であっても、目の前の利益を出すのに必死で、その3年間が我慢できない。長期的な視点での開発を怠り、結果「2番手商法」に甘んじてしまうことになるわけです。テレビも、ブラウン管から薄型へというのは時代の流れだったわけですが、テレビで利益を出している時にこそ新しいテレビに投資すべきなのに「もうかっているから、まだいいじゃないか」と考え、タイミングを逸してしまった。

――テレビ以外にも、例えばかつて大ヒットした「ウォークマン」が、今や米アップルの「iPod」の後塵を拝しています。

立石 ソニーはアップルよりも早く、メモリー内蔵型の携帯オーディオの商品化に成功しています。それが、「ネットワークウォークマン」ですが、グループ内にソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)という世界的な音楽会社を抱えているため、違法コピーされないように厳しい著作権保護技術を使用するなどユーザー以上に気を使った。そのことは、ユーザーからすれば、楽曲をダウンロードする際もした後も、非常に使いにくいものにした。当然、広がるはずもありません。
   一方「iPod」を開発したアップルは、自前でコンテンツを持っていません。だから多くの音楽会社に積極的にはたらきかけて、著作権保護もソニーのような厳しいものを採用しないことに成功しました。つまり、使い勝手がよくなったわけです。ソニーはコンテンツがあったからSMEへの「配慮」ばかりを優先して逆に手足を縛られ、ユーザーを置き去りにしたのです。

徹底したハイエンド製品を売る戦略を立ててもいい

――では「ソニー復活」のための処方箋は何だとお考えですか。

立石 エレキ中心の会社にするなら、世界的な映画会社「ソニー・ピクチャーズエンタテインメント」とSMEのエンタテインメント会社を上場して、その上場益全額をエレキ再建の投資に回す、そのぐらいの大胆な取り組みが必要でしょう。 今後は中国市場を無視できません。1億人ともいわれる中国の富裕層をターゲットに、徹底したハイエンド製品を売る戦略を立ててもいい。もともとソニーは「ボリュームゾーン」で勝負する企業ではないはずです。ソニーの強みは何だったのか、どうやってここまで成長してきたか、原点に戻って考えてみるべきでしょう。「サムスンがやるから我々も有機ELテレビを売る」という姿勢ではダメなのです。
   21世紀のモノづくりは、イノベーションがデバイスからアーキテクチャーやアルゴリズムへと移っていく中で変わって来ていると思います。例えば、テレビなら液晶パネルや有機ELパネルといったディスプレー・デバイスではなく、「絵作り」の技術、具体的にはデジタル信号処理の技術を強化するのがポイントになると思います。デジタル技術は「使い回し」ができますから、デバイスが何であれ有効だからです。デジタル時代の技術開発は、長い時間を必要とします。いったん開発をやめてしまうと、その間に技術革新がどんどん進んでしまうので再参入してもなかなか追いつけません。 ソニー固有の問題は、多くの優秀な技術者がソニーから去っている現実です。先述した「DRC」の開発者である近藤氏もそのひとりで、ソニーを出て「アイキューブド研究所」を立ち上げました。ソニーがテレビ事業再建に本腰で取り組むなら、近藤氏の力を借りるのもひとつの方法ではないでしょうか。

――新CEOとなる平井氏の力量をどのように評価しますか。

立石 CEO就任前の現時点では何とも言えません。平井氏も「今のままではダメ」と分かっているはずですから、周囲にどのような人材を配置するか、どんな戦略を打ち出すか、いかにリーダーシップを発揮するかは、4月1日の正式就任まで評価を待つべきでしょう。

――日本の家電メーカーは今後どうなるのでしょうか。

立石 ソニーの場合、課題は見えていますから、あとはトップが決断するかどうか。むしろ心配なのはパナソニックです。
   パナソニックは「販売の松下」と評され、市場の声を聞いて成長してきた会社です。近年、プラズマテレビに注力してきたパナソニックは、米法人の責任者から「米国の消費者がパナソニックの液晶テレビを見たいと言っている」と要請されても、中村邦夫現会長(2012年6月27日付で相談役に就任予定)は「ウチはプラズマで行くと決めているんだ」と突っぱねていた。これは市場の声を聞かなくなった証左ではないでしょうか。
   結果どうなったか。プラズマが「液晶陣営」に対して不利になると、プラズマパネルの生産工場を増設して強化を図ったものの、結局テレビ事業の縮小に伴いプラズマ2工場の閉鎖を決め、2月3日には、2011年度の連結最終損益が7800億円の赤字になる見通しを発表しました。正直、パナソニックはこの先どうなるか、何をしたいのかが見えません。


<立石泰則氏 プロフィール>

   たていし やすのり ノンフィクション作家・ジャーナリスト。1950年福岡県北九州市生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。雑誌編集者、雑誌記者を経て1988年に独立。

   著書『さよなら!僕らのソニー』(文春文庫)。『ふたつの西武』(日本経済新聞社)ほか、多数。


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