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世界生産の半分強占めるインド工場で暴動 スズキの屋台骨揺るがしかねない大事件

   インドの自動車最大手である、スズキのインド子会社「マルチ・スズキ」(本社・ニューデリー)が、同国北部に持つ「マネサール工場」で2012年7月18日夜、従業員らによる暴動が起き、インド人の幹部1人が死亡、90人以上が負傷した。

   生産再開のめどは立たず、当面は操業を停止する。インドはスズキの世界生産と経常利益の3分の1を担う重要拠点なだけに、操業停止が続けば、スズキの経営にも大きなダメージを与えそうだ。

死者が出るまで激化するのは異例

   スズキはインド北部ハリヤナ州に2工場を持ち、暴動の起きたマネサール工場は年産能力が約60万台。もう一つのグルガオン工場(約90万台)とともに主力工場だ。

   現地警察やスズキによると18日夕方、マネサール工場の労働組合が経営側との協議の場で、同日午前に上司に暴力を振るったとして停職処分となった従業員の処分撤回を求めた。しかし、経営側が処分を変えなかったことから、怒った従業員らが工場敷地内の事務所を破壊し、放火するなど暴徒化した。

   この過程で火災に巻き込まれたと見られる人事担当のインド人役員が死亡した。日本人幹部2人も一時、敷地内に閉じ込められ、負傷した。

   インドで労働争議は珍しくないが、死者が出るまで激化するのは異例という。暴動に加わった従業員ら約100人が殺人未遂や放火などの容疑で逮捕され、取り調べを受けた。

   スズキは1983年、世界の主要メーカーに先駆けてインド国営企業と組んでインドでの生産、販売を始めた。日本独自の規格である「軽自動車」をもとにインド市場に合わせた小型車を展開し、トップメーカーに君臨してきた。

インドでのシェアは38%と7ポイント低下

   スズキの世界生産台数は2012年3月期に280万台で、このうちインドは113万台と日本国内の102万台を上回り、まさに屋台骨といえる。インドは今後も有力新興国の一角として成長を続けると見て、スズキはインド西部グジャラート州に新工場を設けるなどし、2016年3月期までに現行比3割増の200万台の年産能力に拡大する計画だ。

   しかし、日米欧の先進国メーカーも成長するインドに注目し、攻勢をかけている。一方で、マネサール工場では2011年6月から断続的に続いた労働争議によって約8万台の減産を強いられたことなどから、スズキのインドでのシェアは2012年3月期に38%と前年度の45%から7ポイントも低下した。

   こうした中で、再びマネサール工場で操業停止が長引いてスズキのインドのシェアがさらに低下する事態になれば、経営へのダメージは計り知れない。

   関係者によると、スズキのインド工場の賃金は同国内の自動車工場の平均を上回っているという。いち早くインドに浸透したスズキが狙われているのは、地元の野党が勢力拡大を狙う政治的な動きとの関連も指摘される。ともあれ、スズキのインド事業は日本企業の海外進出の成功例の一つであるだけに、巻き返しが期待される。