2024年 4月 19日 (金)

丹羽大使公用車襲撃、闇の部分 普通の民間人にできる犯行なのか

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   尖閣諸島をめぐって日中関係が冷え込むなか、北京で丹羽宇一郎・駐中国大使を乗せた公用車が何者かに襲われ、車に掲げていた日本の国旗が奪われる事件が発生した。

   日本政府は中国側に厳重に抗議して刑事捜査を求めている。ただ、大使の公用車だとなぜ知ることができたのか。一般人がたまたましでかした犯行だとすると高級車2台も使うなど、意外に手が込んでいる。ナゾは多く、中国当局による「自作自演」ではないかとの見方さえ出ている。

行き過ぎた行為はまずいと分かっていた?

   大使の車は2012年8月27日の夕方、北京の環状道路を走行中に2台の車から執ように追跡された挙句に進路を妨害され、ストップさせられた。相手の車はドイツ製の高級車で、1台は地方ナンバーだったとの報道もある。停車後、男性が何かを叫びながら車から降りてきて、公用車の前方に取り付けてあった日本国旗を引き抜き、立ち去った。

   ウィーン条約では、外交官を受け入れている国がその身分や安全を保障する旨を定めている。丹羽大使らにけがはなかったが、一歩間違えば国際社会から糾弾されかねない事態だ。中国国営新華社通信は27日深夜、中国外務省による「この件に関して真剣に調査している。中国政府はウィーン条約を一貫して履行し、在中国大使館や館員の安全を守る」との談話を伝えた。中国のメディアの中では「環球時報」が、「日本大使の車の国旗を奪うのは愚かだ」との記事を掲載。一部による暴走行為と批判する一方、愛国心は冷静かつ紳士的な方法で表現すべきだと主張した。

   尖閣諸島の領有権を主張する中国では、8月19日に広東省深センをはじめ各地で「反日デモ」が発生し、一部が暴徒化して日本食レストランを破壊するケースもあった。今回の公用車襲撃も反日の流れを受けているのは間違いなさそうだが、「実行犯」はどんな人物なのだろうか。

   高級車、車2台、30歳代の男性が日の丸抜き取り――。断片的に伝えられる情報を基に、中国事情に詳しいノンフィクション作家の安田峰俊氏は「調子に乗った金持ちの若者がドライブ中、日の丸を掲げて走る車をたまたま見かけて『やっちまえ』とばかりに仕掛けたのかもしれません」と話す。目立ちたがり屋が英雄気取りで、度が過ぎたイタズラをした。これなら話は単純だが、安田氏はもうひとつの可能性として「中国の軍や公安関係者による『仕込み』」説を口にした。大使の公用車だと知って、特定の政治的意図により送りこんだ人物が恫喝まがいの行為に及んだ、との推測だ。

   もし暴徒化した一般市民が犯人なら、「車のなかにいる人間が日本の大使と知らないはず。それならば、車を蹴って壊したり、車内の人間に暴言を吐いたり、引きずり出して殴ったり。そのぐらいの『狼藉』はやってもおかしくないはずでしょう」と安田氏。国旗を引き抜いただけで、それ以上の危害を一切加えずに引き下がったのは、逆に「行き過ぎた行為はまずい、との感覚があらかじめ分かっていたようにも思える」というわけだ。

政治的に敏感な時期に「軍や警察を手なずける」ため

   もちろん犯人が「調子に乗った若者」だとしても、「逮捕されるのはイヤだが、目立ってチヤホヤされたい」と考えて日の丸引き抜きだけで自制したのかもしれない。だが安田氏が「仕込み説」を唱えるのは、過去に起きた類似の事例がいずれも「当局がらみ」と見ているためだ。

   2008年4月、中国ではフランスに対する抗議デモが起きた。北京五輪を控え、パリでの聖火リレーが中国の人権弾圧に抗議する団体に妨害されたことに若者が反発したのだ。フランス国旗に侮辱的な言葉を書き込んでデモ隊が行進したり、国旗を燃やしたりした場面もあったという。

   国内では2010年9月、中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突して船長が逮捕された直後に、中国河北省で日本人の会社員4人が「軍事管理区域に無断で入り、撮影した」として拘束された。その後全員が解放されたものの、普段は撮影画像の消去や罰金程度で済む問題が、4人中1人が半月以上も帰国を許されないなど厳しい態度をとった背景には、日本の姿勢に対する中国側の「意図」が見え隠れする。

   だが、日本から非難されるのを分かっていながら中国の政府関係者がこのような「仕込み」をするメリットがあるだろうか。安田氏は、中国国内の現在の政治事情が関係しているのではと話す。今秋に指導部の交代を控えており、現在は政治的に敏感な時期。「軍や警察を手なずけるうえで分かりやすいのは、対外強硬姿勢を示す方法」(安田氏)であり、そのために当局の一部の勢力が動いたか、暴走したかの可能性は無視できない、と言う。

   日本側は、国旗を引き抜いた男性の顔や車のナンバープレートを撮影し、北京市公安局に提出した。犯人の特定につながる情報で、中国政府も真剣に対応しているとアピールするが、安田氏はその「本気度」に懐疑的だ。「どうしても犯人を捕まえなければいけない状況となれば、その時は全く関係ない他人を『身代わり』として出してくるかもしれません。そういうことは『中国ではよくあること』ですからね」。

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