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仕事命じたら部下が「ありがとうございます」 場面を問わず、こう口にする人意外に多い

   相手に感謝を伝える「ありがとうございます」のひと言が、首をかしげるような使い方をされているようだ。NHK放送文化研究所は上司と部下の会話で、コピーを取るように命じられた部下が、なぜか「ありがとうございます」と返答した例を挙げて説明した。

   ビジネスマナーの講師に聞くと、場面を問わず「ありがとう」を口にする人をたびたび目にするが「誤った使い方で、改めた方がよい」と忠告する。

20代の31%がこういった会話を耳にした

コピーを頼んだら「ありがとうございます」?
コピーを頼んだら「ありがとうございます」?

   上司が「これ、10部コピーとっておいて」と命じると、部下は「はい、ありがとうございます」とこたえた――。NHK放送文化研究所は(文研)2012年12月1日、この不思議な会話をウェブサイトで取り上げた。さらにインターネット調査を実施し、こうした「ありがとう」の用法を聞いたことがあるか質問した。回答者343人のうち、「聞いたことがない」が全体の82%と圧倒的多数だが、「使い方はおかしいが、聞いたことがある」が15%を記録。年代別には20代の31%、10代の26%がこういった会話を耳にした経験があるそうだ。わずかではあるが、10~30代の中には「おかしくない」と答えた人もいた。

   広辞苑を引くと、ありがとうはもともと「有り難う」、つまりなかなかありそうもないとの意だ。一般的に人の好意や親切に感謝する表現で、文研は、例示したようなシーンでは通常部下は「かしこまりました」「承知しました」と返すものだと指摘している。

   インターネット掲示板やツイッターを見ると、「この使い方は変だ」という書き込みが大半だ。だが中には、書類を書くように指示したら「ありがとうございます」と返されたとの声や、自身がクレーム電話に思わず「ありがとうございます」と言ってしまったという「告白」も出た。おおむね「間違い」と認識されている一方、実際のビジネスシーンでは意外に見られる光景なのだろうか。

   コーチングやマナー研修を手がける「ラプラス」社長の長尾円氏に聞くと、「仕事を頼まれて『ありがとうございます』と答えたのは、もしかしたら仕事の機会を与えてもらったことへの感謝かもしれません」と推測するが、「でも、ひと言だけでは前後関係が不明で、意味が通じません。用法としては誤りです」と断じた。自身が指導する受講生に類似の言い回しをする人は心当たりがないが、「何かにつけて『ありがとうございます』を連呼する人は、時折見かけます」。

「すみません」連発が置き換わった?

   かつては、事あるごとに「すみません」を連発するケースが見られたようだが、あまりポジティブな印象を与えない言葉のためか、いつしか「ありがとう」に置き換わった可能性を長尾氏は指摘する。相手に不快な思いをさせない「便利な言葉」かもしれないが、「言葉は気持ちを伝えるツール。適切な場面でないのに連呼していると、その言葉が本来持つ『重み』が失われてしまいます」という。こうなると実際に感謝すべきシーンで「ありがとう」を使ったとき、相手に「本当にそう思っているのか」「また口癖で言っているだけでは」と、真剣さを疑われかねない。

   まるで条件反射のように「ありがとう」を口にするのは「改めた方がよいでしょう」と長尾氏。意識しないと直りにくいため、まずはそれぞれの場面に応じてどう返答するのがふさわしいか、ボキャブラリーを整理するのが大切のようだ。ひとりで考えても思い浮かばないので、周囲の人を観察しながら、最適な表現は何かを学びとるのが有効だという。身につけた言葉の意味合いを理解したうえで、状況に適した語句を使ってほしいとアドバイスする。