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高橋洋一の自民党ウォッチ
政治家とマスコミを「踊らせる」 官僚が「同意人事」骨抜きにする技

   注目の日銀人事政府案が提示されたが、本稿では人物評でなく、国会同意人事のあり方を論じたい。

   人事「される」側のサラリーマンが居酒屋論議でヒトゴトをいうのはわかるが、人事を「行う」国会議員が面接もなしで「結論ありき」の発言をするのは違和感がある。「現時点では●●氏。決定は面接の後」というのが筋である。面接なしでの人事は、本来ならありえないはずだ。このような常識ルールも踏まえていないなら国会で人事なぞ出来るはずがない。

ヒアリング前から「結論」求める報道陣

   国会同意人事は形骸化している。直前に簡単な略歴が各党に配布され、それだけでほとんどの人事が同意されている。実は、官僚が国会同意人事を骨抜きし、自分たちの意のままに決めている。まず、人事を有利に進めるためにマスコミにリークする。そうすると、その賛否を各党が競って発言するようになる。

   政治家はマスコミに賛否を問われると、自身の発言を見出しなどにして報じてもらいたいために答える。本来、人事は面接をしてから行うものだが、マスコミから煽られて、ヒアリング(面接)前の段階で賛否の「結論」を言ってしまう。

   そうなると各党の意向が早くわかってしまい、国会でのヒアリングに興味が薄れる。実はこれが官僚側の意図なのだ。もう結論が出ているので、ヒアリング時間がなくなったり、短くなったりすれば、ますます官僚側の思うつぼだ。ヒアリングへの関心が薄くなり、報道されなくなるのも、官僚側にとってうれしい。

   マスコミは短絡的なので、候補者へのヒアリングの中身より、候補者への賛否だけを知りたがる傾向があることを官僚は知っている。同時に、政治家がマスコミから候補者への賛否を問われると、政治家は報道してもらいたいために、(面接前でも)賛否の結論のみを話す傾向があることも官僚は知っている。

人事は、決められた人にも決めた人にも責任がある

   こうしたマスコミと政治家のクセを官僚は熟知して、国会同意人事の事前のリークが行われるのだ。そして、地ならしが行われて、官僚の手の上で、マスコミと政治家が踊らされて、結果として官僚は自分たちの思い通りの人事ができる。

   今回の日銀人事は安倍首相の主導で、必ずしもこれまでの同意人事と同一視できないが、空白なくして結論を急げというマスコミ論調はおかしい。むしろ、ヒアリングでの質疑をフルオープンで時間を長くとるべきだ。その中で、目標の設定や目標が達成できない場合の責任の取り方を候補者に宣言させたり、場合によっては人事案を組み替えたりするなどの柔軟で熟議の運営にすべきだ。

   渡辺喜美・みんなの党代表は、今回の日銀人事について、実際の会見を見ると、まず国会の透明な議論の場で「金融緩和にコミットするか」を当人に確かめるのが重要で、それまでは(現時点では)ペケだ、とまともな話をしているのに、マスコミでは「(渡辺氏は)反対」とだけ歪んで報道されている。

   より重要なのは公式の場での約束だ。人間は周りの環境で行動が変わるものなので、候補者本人に事前に宣言してもらったほうがいい。もし、「目標達成出来なければ辞める」と国会で言ってもらったら、誰でもその人物の覚悟のほどがわかるだろう。

   また、そのようなヒアリング、面接を行うことは、同意人事を行う国会の責任でもあるはずだ。同意人事に賛成しながら、後になって同じ人物を非難する政党は見苦しいモノだ。人事は、決められた人にも決めた人にも責任がある。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。