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北朝鮮は中国漁船にも容赦なし 「船長を暴行」「燃料すべて取り上げ」の証言

   北朝鮮に拿捕(だほ)された中国漁船が、中国当局の働きかけで解放された。事態の深刻化を避けるため、両国間で早めの幕引きを図ったとみられる。

   だが漁船の乗組員は、拘留中に北朝鮮側から手ひどい扱いを受けていたとの証言が出た。1年前の漁船拿捕では、中国人船長が暴行されて骨折したとの話もある。

燃料を没収され、1000万円の身代金を要求された

テレビニュースの扱いは短時間だった
テレビニュースの扱いは短時間だった

   中国漁船が拿捕されたのは2013年5月5日、朝鮮半島西側の黄海での操業中だった。16人の船員が2週間余り拘束された末に中国当局が身柄の引き渡しを要求。最終的には北朝鮮側がこれに応じたとみられる。

   中国外務省は5月21日、16人全員が解放されたと発表、うわさされた「身代金」の支払いもなかったとした。インターネットで中国中央テレビ(CCTV)の英語放送を見たところ、22日正午(現地時間)のニュースで取りあげていた。中国外務省報道官は、「政府は北朝鮮側に、今回の調査と再発防止を求めた」とコメント。拿捕された船は今後も同じ海域で操業を続けることも明かしていた。加えて、北朝鮮が中国に特使を派遣したことも伝えている。金正恩体制で高官を中国に送ったのは初めてだという。

   ただ昼のCCTVニュースでは、冒頭から李克強首相のインド訪問関連の話題に多くの時間を割き、「漁船の乗組員解放」については番組の中盤で2分程度報じたにとどまった。

   一方で活字メディアは、船員が北朝鮮に拘留されていた際の様子を詳しく伝えている。人民日報系の「環球時報」電子版(英語)5月22日付の記事では、船主が「北朝鮮側に、50万元(約830万円)分の燃料を没収された」と告白。日用品レベルの損失は「計算しなかった」という。奪われた数量がよほど多かったのだろうか。

   さらに船主は、北朝鮮側から「身代金の支払いを要求する電話」が合計8回かかってきたと明かす。相手が誰だったかは特定していないが、カタコトの中国語を話す「通訳」がはっきりと金銭を求めてきたという。その額は、かねてから報じられていた60万元(約1000万円)。5月21日正午に期限を設定されたが船主は応じず、中国政府に問題の解決を依頼したと語っていた。

武装集団の激しい暴力で漁業続けられなくなった

   海外報道も多い。AP通信は環球時報と同じく船主に取材しているが、5月21日付の記事の中で、北朝鮮軍の軍服を着た武装集団に「船長が殴られて腕にけがを負った」と語っている。暴行のいきさつには触れていない。解放の時点で回復しており、ほかの船員が暴力を受けた事実はなかったという。船の中を歩き回るのは許されたが、夜間は船室から出るのを禁じられた。「船長によると、北朝鮮側の男たちは軍人のようで、銃火器を携帯して漁船を拿捕する際にそれを使用した」と語ったという。

   北朝鮮は2012年5月にも、中国漁船3隻を拿捕して計29人の船員が拘留されている。先の環球時報の記事では当時の船員の証言を掲載。船長が暴行されて片方の足を骨折したほか、激しい暴力を受けた船員がおり、計8人が解放後に漁業を継続できなくなった。一方で総額120万元(約1992万円)を超える船の設備や燃料、日用品が奪われたそうだ。

   中朝は朝鮮戦争以来「血で固めた盟友」とされ、過去に北朝鮮がミサイル発射や核実験を実行しても、中国が国際社会に「冷静な対応」を呼び掛けて強力な制裁に一定の歯止めをかけてきた。だが2013年3月には、国連安保理の制裁決議に中国が賛成に回ったほか、一部の銀行間取引を停止するなど関係性に変化が見られる。上海・同済大学の朝鮮半島研究センター所長は環球時報にコメントし、「伝統的なイデオロギーの結びつきから、一般的な2国間関係に変わってきた」ため、この種の問題が浮上するようになってきたと指摘。漁業権確定のため中国当局は話し合いでの解決を望んでいるが、北朝鮮が今回のように「対応を誤る」ことになれば、中国も相応の態度をとることになるだろう、としている。

   別の専門家は、中国政府が北朝鮮との摩擦に関してもっと情報公開を徹底すべきだと主張。中国側の権利を脅かす相手に対しては制裁をちゅうちょしてはならないと、強硬な意見を示している。