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ソフトバンクの米携帯電話会社の買収 株主に有利な条件提示、成功の公算高まる

   米携帯電話3位のスプリント・ネクステルの買収を巡り、ソフトバンクが2013年6月11日、買収総額を当初の約201億ドルから15億ドル引き上げ、約216億ドルに変更することでスプリントと合意した。4月に対抗買収案を提案していた米衛星放送大手ディッシュ・ネットワークより有利な条件を株主に提示することで支持を取り付けるのが狙いだ。ディッシュがスプリントへの新たな買収案提示を見送るなど、ソフトバンクの買収成功の公算が大きくなっている。

買収額の積み増しで株主に譲歩

   ソフトバンクが買収額を引き上げたことで、出資比率は約70%から約78%に高まった。株主が受け取る金額は1株当たり0.35ドル増えて7.65ドルとなり、ディッシュの7ドルを上回る。これを受け、スプリント大株主で著名投資家のジョン・ポールソン氏がディッシュ支持からソフトバンク支持に転じた。

   ソフトバンクの孫正義社長も「スプリントの競争力強化につながる」とのコメントを出し、買収成功に自信を示した。ただ、ディッシュの買収額は255億ドルで、引き上げ後のソフトバンク案を上回っているが、スプリントは「ディッシュ案はより優れた提案につながる合理的な見込みがない」と判断している。当初12日に予定していたソフトバンク案を決議する臨時株総も25日に延期し、株主にソフトバンク案に賛成票を投じるよう推奨した。こうしたスプリントの決断の背景には、ディッシュに携帯電話事業のノウハウがないことなどがあるとみられる。

   一方のソフトバンクは、4月にディッシュが対抗買収案を提示して以降も「買収額の積み増しは必要ない」(孫社長)との立場を貫いていた。それが一転、引き上げを決めたのは、株主の支持を得られるかに不透明感が出始めていたからだ。「買収合戦が長引けば経営への影響も出かねない」との危機感もあり、最終的には引き上げを決めて株主に譲歩した形だ。

   ディッシュは、スプリントが「新たな買収提案の期限」とした18日に新提案をせず、「18日までに修正提案を提出することが非現実的になった」との声明を出した。ディッシュについては資金調達力が低いとの分析もあり、米国では買収を断念するとの見方が拡大、翌19日の東京市場でソフトバンク株は「勝算が高まった」として前日比220円(4.2%)高い5460円で引けた。

子会社がディッシュ支持

   ただ、ここに来てソフトバンクの米国戦略に影を落とす事態も生じている。スプリントの子会社である米高速無線通信会社クリアワイヤの経営陣が、自社に株式公開買い付け(TOB)を実施しているディッシュを支持する立場に回っているのだ。

   クリアワイヤはスプリントが50%強出資する上場子会社で、昨年12月にスプリントの完全子会社になることで合意していた。クリアワイヤは高速通信に使える周波数を豊富に抱え、ソフトバンクはスプリント買収によって、この周波数帯を活用し、スプリントとともに米国で高速通信網を強化することを狙っていた。

   今年1月にディッシュがクリアワイヤに対抗買収を提案。現状ではスプリントが1株3.40ドル、ディッシュは1株4.40ドルを提示し、ディッシュの方が3割高いため、クリアワイヤ経営陣はディッシュ支持に回ったというわけだ。スプリントがクリアワイヤ株の過半数を押さえているとはいえ、ディッシュのTOBが成功して大株主としてクリアワイヤへの発言権が強まれば、ソフトバンクの事業展開の足かせにもなりかねない。