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自民がTPP「重要5項目」の検証作業スタート 党内外から「公約違反だ」との批判も

   環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に絡み、自民党はコメや麦、乳製品などの農産物「重要5項目」を細分化した586品目について、関税の必要性を改めて検証する作業に着手した。TPPが掲げる「高いレベルの自由化」に対応するにはやむを得ないとの判断があるとみられる。

   だが重要5項目を「聖域」としてきた従来の姿勢からの転換ともとらえられ、党内外から「公約違反だ」との批判も高まっている。

西川発言がきっかけ

   「5項目の検証」は、今月上旬、TPP交渉が開かれていたインドネシア・バリ島での西川公也・自民党TPP対策委員長の発言がきっかけだった。バリ島で開かれたTPP首脳会合では、「包括的でバランスの取れた地域協定を年内に妥結する」との首脳声明が採択され、「年内妥結」も視野に入ってきた。

   西川氏の唐突ともいえる発言は、時間的に余裕がない厳しい交渉が目前に迫る中、現実的な対応が不可欠との考えが働いた結果とみられている。

   しかし、自民党はこれまで「重要5項目」を「聖域」と位置づけ、関税撤廃交渉の対象にはしないとの姿勢を示してきた。7月の参院選時の公約でもTPP交渉に絡み、「国益にかなう最善の道を追求する」と強調、「聖域」の確保を望む農業団体などから広く支持を取り付けてきた経緯がある。

聖域化したままでは乗り切れない

   自民党の石破茂幹事長は、西川氏の発言に関し、「コメや麦などの細分化された品目を一つ一つ検証するが、関税を撤廃するとも全く言っていない。(党の)公約を変更するという意味ではない」との説明を繰り返したが、事実上の「方針転換」に対する反発は収まっていない。今月中旬から始まった衆院本会議では、野党から「重要5項目で大きく妥協する発言は公約違反」との質問が続出している。

   ただ、実際には「重要5項目を聖域化したままではTPP交渉は乗り切れない」(政府関係者)との見方は強い。重要5項目に当たる586品目は、全対象品目の6.5%に上り、すべて関税撤廃の対象から外した場合、日本の関税の自由化率は93.5%にとどまることになる。しかし、TPPを主導する米国などは自由化率を96~97%まで高めたい方針とみられているほか、ニュージーランドやシンガポールなどはTPPが大原則とする関税撤廃を貫くよう主張しているとされる。日本がTPP交渉に真に向き合うには、「西川発言は当たり前の話」(自民党関係者)ともいえるのだ。

   実際、政府自身も西川発言を否定せず、甘利明TPP担当相は「党と連携をとっていきたい」と述べている。政府は西川発言を機とした自民党による重要5項目の精査状況を淡々と見守りつつ、「聖域」を手放そうというのが本音とみえる。