2024年 4月 19日 (金)

被災者・避難者の「内緒の選択」【福島・いわき発】

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   交流スペース「ぶらっと」=イトーヨーカドー平店2階=で知り合った木村孝夫さんから、詩集『ふくしまという名の舟にのって』(竹林館、2013年12月刊)=写真=をちょうだいした。


   あとがきに「奉仕活動を通して傾聴した被災者の方々の気持ちや、毎日のようにニュースになっている原発事故の収束状況などを下地として、作品を書き上げている。今も原発周辺はそのままだ。汚染水問題もあって刻々と状況が変化している。作品はその状況の変化を、心の状況と照らし合わせながら書いている」とある。


   いわき市をハマ・マチ・ヤマで分けると、木村さんはマチの住人だ。東日本大震災と原発事故で「3日ほど避難生活と半月の水道供給停止を経験しただけで、二つの災害の影響をほとんど受けることがなかった。だから、今何かをしなければという思いが強い」。それが、詩でこの災禍を記録することだった。地震・津波 の被災者や原発避難者の言葉に耳を傾け、胸の内を推し量る。


   <選択>の前半部はこうだ。「一年が過ぎると/老いの深まりが強くなった/三年目に入ると/新聞のおくやみ情報に古里の住所が載り始めた/仮設住宅の生活が長くなって/心の痛みが 切ないね/と 呟く日が増えてきた//もうここまでと/線引きし/戻らないと決めた日には/夜遅くまで泣いた」


   原発事故でふるさとを追われ、いわきで応急仮設住宅に住む人の気持ちを詠んだ。最後の4行、「心の中で壊れていくものが渦巻いている/選択とは/葛藤を切り刻んでできあがる/切ないものなのだ」が胸に突き刺さる。


   <内緒>に選択の一つが描かれる。「内緒ですよ/と 耳もとで囁く/いわき市に家を買いました/同郷の人には/まだ内緒ですが/いわき市民になりました//仮設住宅の生活に疲れ/ストレスで亡くなる方もいて/私も主人も病院通いの日々です/狭い部屋の中では/新鮮な呼吸をすることもできずに/肺も体も/だいぶ小さくなりました」


   次の連。「古里を見捨てたようで/心苦しいのですが/新しい住所を泣き泣き買いました/老後のすべてが/吹き飛んだ日のことを忘れない/という条件付で//契約書に/新たな条件を添え書きしたとき/主人の手が震えていました/重いものなのです/新しい場所で新しい生活を始めることは/それでも選択しました」


   同じような選択をして東京に家を求め、借り上げ住宅から間もなく引っ越す人がいる。移住を同郷の「友達にもいわないの」という。いわきに避難しても、市民とは没交渉の日々。まるで最初からそこに存在しなかったかのように、ひっそりといわきから姿を消す。


   原発事故はコミュニティを破壊し、家族を分断し、友愛を切り刻む。<ふくしまという名の舟>にのっているのは、放射能という悪霊に苦しみ、翻弄されている人々の魂だ。

(タカじい)



タカじい
「出身は阿武隈高地、入身はいわき市」と思い定めているジャーナリスト。 ケツメイシの「ドライブ」と焼酎の「田苑」を愛し、江戸時代後期の俳諧研究と地ネギ(三春ネギ)のルーツ調べが趣味の団塊男です。週末には夏井川渓谷で家庭菜園と山菜・キノコ採りを楽しんでいます。
■ブログ http://iwakiland.blogspot.com/

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