2024年 4月 20日 (土)

高橋洋一の自民党ウォッチ
「年金」独法の積極運用に異議あり 「官の財テク」は誰も責任とらない

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   長いこと役人をやっていたので、かつて担当していた分野のニュースは気になる。その中で、最近呆れているのが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だ。公的年金積立金の積極運用に転換しようとしているのだ。

   最近は株高なので、年金運用ならいいではないかという議論もあろう。しかし、筆者は、官が財テクをするのは、現役役人の時から反対だった。

GPIFは「丸投げ機関」

   GPIFは、サラリーマンの厚生年金の運用事業を行う独立行政法人で2006年4月に設立されたが、その前身は年金福祉事業団という特殊法人だ。運用事業は「官の財テク」として1986年度からスタートした。財テク機関の性格は同じだ。

   当時、運用を行っていたのは厚生次官の天下り指定席であった年金福祉事業団(年福事業団)。有り余るほどの巨額なカネを使うことから、「満腹事業団」と揶揄されていた。ちなみに、巨額の年金資金をつぎ込み各地でリゾート施設を作り不良債権化させたグリーンピア事業も、年福事業団の仕事だった。

   2000年度までの財テク事業の最終的な収支尻は、累積損失約2兆円。官の財テクはこんなもので、肝心の運用実績は上がらなかった。しかし、官の財テク事業もグリーンピア事業と同じで誰も責任をとっていない。

   官の財テク機関といっても、官僚が自前で運用できる能力はないので、実際の運用は外部委託して民間金融機関で行っている。この意味で、GPIFは「丸投げ機関」である。ただし、民間機関にとっては、巨額の運用資金を獲得できるので、GPIFやその監督官庁の厚労省は上得意先でメシのタネだ。

なぜ国家公務員共済は積極運用しないのか

   筆者が担当していたのは、1990年代初めの頃で、まだ財テクブームが残っていたが、当時から、責任をとれない仕組みに疑問があった。

   1998年から米国プリンストン大にいたが、当時クリントン大統領が公的年金の株式運用構想をぶち上げていた。筆者は米国政府関係者から日本の事情をヒアリングされたが、そのときも、公的年金の株式運用は「Negative」といった。グリーンスパン連銀議長(当時)も否定的だったが、そのロジックが面白かった。

「政府は健康のためにたばこ会社に対して厳しい措置をしなければいけないが、そのときに公的年金でたばこ会社株をもっていたらどうするのか」

   結局、クリントンは提案を取り下げた。

   はっきり言えば、年金保険料として強制的に徴収して、国が国民に代わって財テクするくらいなら、その分保険料を安くして、財テクしたい人は自分でやればいい。

   それでも、国で財テクしたい厚労官僚は、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)等の例を持ち出してくる。それは、国ではなく州であり、しかも州民ではなく、州職員の年金だ。

   その例を持ち出すなら、サラリーマンの厚生年金の運用を行うGPIFではなく、公務員の年金の運用をする国家公務員共済で、積極運用すればいい。しかし、昔からであるが、国家公務員共済は積極運用しない。なぜ同じ公的年金なのに、民間サラリーマン年金と国家公務員年金で差があるのか。筆者が担当者だったときに、厚生官僚に聞いたことがある。そしたら「公務員で先にやるはずないでしょ」だった。そのときは冗談と思っていたが、やはり公務員は自分にはね返るような危ないことはしないのだ。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。


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