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介護保険改革、来年度から ある程度の負担増は仕方がないのか

   医療と介護に関する制度改正を包括的に盛り込んだ「地域医療・介護確保法」が通常国会で成立した。

   介護保険制度については、2015年度以降、低所得の人の負担軽減と一定の所得がある人の負担増をセットで実施するほか、比較的軽度の「要支援」の人向けサービスを2015年度から3年間で市町村に移管することなどが決まった。地域に合ったサービスへの転換をうたっているが、担い手の確保など地域間格差が生じる懸念もある。

「要支援」は市町村事業に

   介護保険改革の主なメニューは、まず保険料の増減。低所得者は、基準保険料(全国平均月4972円)の軽減措置が50%減と25%減の2段階から、70%減、50%減、30%減の3段階に広がる。一方、高所得者は25%、50%増が、20%、30%、50%、70%増の4段階になる。

   介護を受けた場合の自己負担も増やす。年金収入が単身で年280万円以上(夫と専業主婦の妻のモデル世帯では359万円以上)など一定の所得がある人は1割負担から2割に上がる。対象は高齢者全体の20%になるといい、例えば自宅から車で送迎してもらい、施設で入浴などをするデイサービスを週3回受ける場合、利用者の支払額は月1万円から2万円に増え、特別養護老人ホームの施設利用料も、月2万8000円から上限の3万7200円に上がる。

   また、特養や介護老人保健施設(在宅復帰を目指すリハビリなどのための一時滞在施設)に入所する人の食事代や部屋代の補助も縮小。現在は住民税非課税世帯など所得が少ない層には補助が出るが、2015年8月から、単身で1000万円超、夫婦で2000万円超の預貯金を持つ人には補助を出さない。

   サービス面では、「要支援」向けの通所・訪問介護を、介護保険の対象から外して市町村事業に移管する。地域に合ったサービス提供でムダを減らし給付費の伸びを抑えるのが狙いだ。入居を希望する待機者が52万人いる特別養護老人ホームについては、新たな入居者を、原則として要介護の程度(5段階)を「要介護3」以上とする――といった具合だ。

放置すれば制度が破たん

   日本の医療・介護制度には、高齢者の急増、支え手世代の減少、財政難のトリプルパンチが待ち構える。高齢化がピークを迎える2025年には介護給付費は今の年間10兆円から21兆円に膨らみ、放置すれば保険料負担が限界を超えて制度が破たんしかねないから、制度を維持するために、利用者に痛み(負担像)を求めざるをえないというのが、今回の制度改正の考え方。全体として、在宅重視の方向が色濃く表れている。

   制度維持のためある程度の負担増はやむを得ないという総論では、主要マスコミの論調も含め、大方が一致するが、具体的に見ると、問題もある。

   国会審議でも焦点になったのが「要支援者」向けサービスの地方移管。市町村が独自に内容を決めて実施する方式にして、ボランティアやNPOも活用し、費用抑制を図る狙い。確かに、現行のサービスには掃除や洗濯など介護専門職員がやる必要のないものまで含まれるといった「無駄」に思える部分も多いのは確かだが、要支援者サービスは、介護の初期で悪化を防ぐ意味も大きい。

   専門家のヘルパーが行くから、体調や言動などの変化や認知症の兆候に気づくケースもあるといい、「安易にボランティアに委ねればサインを察知できず、サービスの質の低下を招きかねない」(介護に詳しい学者)。国会審議では「要支援切りで、利用者の要介護度が上昇し、全体のコストはかえって増えるのでは」との指摘も相次いだ。

   特別養護老人ホームの入居制限についても、要介護度は低くても、独居や老老介護、生活困窮などの事情を抱えた人も多く、「硬直した判断で、一層の生活困窮や、追い詰められた家族による虐待といった悲劇を招きかねない」(福祉関係のNPO)との指摘も聞こえる。

都市と地方で課題に差

   担い手の確保が難しいという問題もある。例えば要支援の高齢者が約1000人いる九州のある自治体の担当者は「財政が厳しいので支え手としてボランティアに頼らざるを得ないが、市内に高齢者支援ボランティア団体はほとんどなく、マンパワー確保の見通しが立たない」と不安をのぞかせる。比較的NPOなどの層が厚い大都市圏に比べ、過疎化が進む地方が人材確保に苦労しそうで、地域間格差が生まれる恐れもある。

   財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が、5月に麻生太郎財務相に提出した財政健全化に向けた基本的考え方(提言)では、介護保険料を払う対象年齢(40歳以上)の引き下げについて「検討の余地がある」とするなど、新たな負担増のメニューが早くも俎上に載せられている。

   いずれにせよ、趨勢として介護の給付抑制の流れは変わらない。これから高齢者が急増する大都市圏と、すでに過疎化が進む地方の抱える課題は異なる。地域の実情に合わせ、サービスや人材を必要とする人にいかに適切に届けるか。介護保険制度の前途には難問が山積している。