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高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
GDP大幅減「想定内」のごまかし いつの時点の予測なのかが問題だ

   内閣府が8月13日(2014年)発表した4-6 月期のGDP(一次速報値)は、物価変動の影響を除いた実質で前期比マイナス1.7%、年率換算ではマイナス6.8%だった。

   多くのエコノミストは「想定内」といい、それを受けて、マスコミ報道も「想定内」ばかりだった。この「想定内」という言葉はくせ者だ。いつの時点で「想定」したのかはっきりしない言葉だからだ。

各種統計が出そろった後に推計するのは簡単

   日本の著名なエコノミストといえば、ESPフォーキャスト調査のフォーキャスターリストに名を連ねている40人程度であろう。その人たちは、成長率などで経済予測を毎月行っている。

   4-6月期の実質GDP成長率(前期比・年率換算)について、そのメンバーの平均値は、4月調査で4.04%、5月調査でマイナス3.80%、6月調査でマイナス4.18%、7月調査でマイナス4.90%、8月12日に発表された8月調査ではマイナス6.81%となっている。これでわかるだろうが、1か月前までは、今回発表になったマイナス6.8%は「想定外」だが、1日前から「想定内」になったのだ。

   実はGDP統計は、家計調査、機械受注、鉱工業生産指数、建設着工などの各省が毎月公表している各種統計を加工して作った二次統計だ。だから、各種統計結果がわかれば、GDPはどうなのか推計できる。1週間前に今回の発表数字がほぼわかるのは、役所からのリークなしでも当然だ。つまり、GDP統計は各種統計が出そろった後に推計するのは簡単なのだ。要するに、GDP速報についていえば、エコノミストは直前の予想なら常に「想定内」となる。

   いつも予測が当たっていると言いたがるエコノミストらしいといえば、その通りだ。ほかにも、この手のごまかしテクニックがある。たとえば、夜に政治家とエコノミストが懇談をするとしよう。そのとき、海外市場の動向をつかんでいるエコノミストは、明日の日経平均はいくらぐらいから始まると予測できる。手の内がわかっている人にとっては何でもない話だが、それを事情の知らない政治家に言うと、予測が当たるので驚く人もいる。それで、予測があたると思わせるエコノミストもいた。

消費税増税の影響でも同様の「想定内」

   これだけならほほえましい光景かもしれない。しかし、「想定内」を連発するエコノミストの多くは、消費税増税でも経済に対する影響は軽微であるといってきた。昨2013年8月の政府のヒアリングでも、消費税の影響は軽微とするエコノミストが多数出席した。そして、彼らの1年前の予測は、たしかに軽微な影響であったが、今回はその「想定外」で、結果として間違っていた。しかし、1年前の予測は修正され、今は「想定内」ということで、あたかも1年前の予測が当たっているかのように誤解されている。

   7-9月期はどうか。ものすごく落ちた後は、少しは上がるものだ。これを市場では、「死んだネコでも放れば弾む」(Dead Cat Bounce)という。

   甘利明・経済財政相が、7-9月期GDP見通しについて「かなり上昇するのは間違いない」と語ったと報道されている。まさか、「死んだネコでも放れば弾む」を期待しているのだろうか。

   「死んだネコ」の話には続きがある。リバウンドは少しで、その後も下がるのだ。ちょっとばかり上がった隙に、消費税増税を決めたら、将来に禍根を残すだろう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。