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大阪、沖縄、横浜を第一陣として想定? しかしカジノ合法化の法案に強い逆風が...

   カジノ合法化を目指す動きに逆風が強まっている。

   カジノを核とする統合型リゾート(IR)の推進をめざす超党派の「国際観光産業振興議員連盟」(会長・細田博之自民党幹事長代行)が成立を目指す「IR整備推進法案」(カジノ法案)について、ギャンブル依存症問題など世論の批判が根強い。その上マスコミ論調も、多くの問題で安倍晋三政権支持の論陣を張る読売新聞までが慎重論を唱えるなど、反対一色の様相だ。政府は成長戦略の一環と位置付けるが、与野党対立もあり、今臨時国会での成立の見通しは立っていない。

「観光立国」の起爆剤としてカジノに期待

マスコミも「反対一色」のカジノ(画像はイメージ)
マスコミも「反対一色」のカジノ(画像はイメージ)

   IRはカジノやホテル、国際展示場などが一体化した施設のことで、カジノを呼び水として国際イベントを誘致するなど相乗効果を狙う。法案では、許可を受けた民間事業者が国の認定を受けた地域で運営するとしている。ただ、同法案は大枠を定めるだけで、細目は、施行後1年以内に政府が別の法律で決める。

   カジノ合法化を巡っては賛否が分かれ、長らくこう着状態だったが、安倍政権になって実現を目指す動きが勢いを増した。安倍首相自身が推進議連の最高顧問を務め(現在は辞任)、アベノミクスの成長戦略の柱として位置づけ、今年5月にはシンガポールのIRを視察して「成長戦略の目玉」と明言し、6月に改定した新・成長戦略にもIRの検討を盛り込んだ。東京五輪の2020年までに訪日外国人を年2000万人(今年は1200万~1300万人の見込み)にしたいという「観光立国」を目指しており、その起爆剤としてカジノに期待しているわけだ。

自民党内にも慎重論がくすぶる

   観光客が集まれば雇用も生まれ、地域経済が活性化するとして、各地が意欲を見せており、政府が大阪市、沖縄県、横浜市の3カ所を認定第一陣として想定しているとの報道もある。大和総研は、この3カ所に開設した場合、経済波及効果は計7.7兆円に上ると試算。ちなみに、石原慎太郎都政時代は意欲的とされた東京都は、五輪関連施設の整備を優先していて、舛添要一知事も消極的なことから、仮に合法化されても第1号認定からは外れる見通しだ。

   一方、カジノは、周辺の治安悪化や資金洗浄(マネーロンダリング)の温床になる恐れがあるといったマイナス面が付きまとう。特に懸念されるのがギャンブル依存症の問題。折しも厚生労働省の研究班は8月、依存症の疑いがある人が成人の5%弱にあたる536万人に達するとの推計を発表したが、他国と比べても高い水準だといい、合法化反対の主要な論拠になっている。

   このため、与党でも自民党内に慎重論がくすぶるほか、公明党は慎重論が大勢。自治体では、大阪市の橋下徹市長が誘致に意欲を示せば、お隣の兵庫県の井戸敏三知事が反対を明言、両者が会見などで互いに批判し合うなど、自治体間の温度差も大きい。世論の風当たりも強く、「毎日」の世論調査(10月18、19日実施)では、カジノ法案「反対」が62%に達し、「賛成」の31%のダブルスコア。特に、男性の反対が56%なのに対し、女性は67%が反対と、女性の拒否反応が強い。

日経も「マイナス面を十分検証したうえで議論を尽くすべきだ」

   勢い、マスコミの論調も厳しい。TBSのサンデーモーニングが26日の放送で、「地域に根ざした産業や営みがカジノによって破壊されてしまう。カジノだけに頼った街づくりが破綻したときに何もない街になってしまう」(鳥畑与一静岡大教授)などとして、マネーゲームに明け暮れ格差が拡大する世界経済の「カジノ資本主義」にも絡めて批判的に報道した。

   新聞の社説では、従来からギャンブルに批判的な「朝日」「毎日」が明確な反対論を展開。ギャンブル依存症などマイナス面とともに、カジノの国際競争の激化や、進出してくる外国資本に収益を吸い上げられるのではとの懸念なども挙げ、「そもそも成長戦略の名の下、国を挙げて賭博を推進することに正当性があるのか疑問だ。解禁ありきで審議を進めることに反対する」(「毎日」10月13日付)、「カジノがもたらす害については、徹底した議論が不可欠だ。拙速に成立させるべきではない」(「朝日」10月20日付)などとバッサリ。成長戦略全般については推進を訴える「日経」も、この法案に限っては「マイナス面を十分検証したうえで、幅広く意見を聴いて議論を尽くすべきだ」(7月27日付)と慎重姿勢だ。

「カジノの『負の側面』に正面から向き合おうとしないのは、極めて問題」

   そして、特に目を引くのが、日ごろは安倍政権の政策への協力姿勢が目立つ「読売」で、「カジノ解禁の功罪に関する議論が拙速であってはなるまい」として、「2020年東京五輪にIR整備を間に合わせよう、という安直な発想で、依存症の人や犯罪の増加など、カジノの『負の側面』に正面から向き合おうとしないのは、極めて問題」「ギャンブルに頼らない活性化策を検討するのが本筋だろう」「合法化するなら、説得力ある包括的な対策を明示し、国民の幅広い理解を得ることが不可欠である」(10月17日付)などと、具体的、詳細に問題点を列挙している。

   批判の声が強いことを意識し、カジノ議連は10月16日、日本人の入場に一定の制限を設けるよう、法案の修正案を決めた。具体的には、国民からは入場料を徴収するシンガポールや、国民が利用できる施設を一部に限る韓国などを念頭に置いているとされる。

   議連の細田会長は「これから日本を支える産業は観光だ。一気呵成に法案成立を目指したい」(16日の総会)と檄を飛ばす。法案が大枠を決めるだけであることから、ギャンブル依存症対策などの具体策を法案成立後の政府の検討に委ね、とにかく成立を急ぎたい考えとみられる。しかし、世論の納得を得るには程遠い現状で、与党内でも、今国会の成立を絶望視する見方が強まっている。