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開発への道筋が見えてきた、夢の技術人工光合成 2022年に総合実証試験のスタート目指す

   地球に無尽蔵に降り注ぐ太陽光エネルギーを使って植物が栄養を作りだすように、人工的にエネルギーを作り出す「人工光合成」が注目を集めている。日本は世界でも最先端を走っているとされ、地球温暖化を防ぐ切り札になりうる夢の技術として期待は大きい。

   理科で学ぶ植物の光合成は、葉で太陽の光を集め、そのエネルギーを使って水と空気中の二酸化炭素(CO2)から、有機物(炭水化物や糖)と酸素を作り出す。

太陽エネルギーとCO2というコストの掛からないものが原料

植物の力を経済成長に生かす(画像はイメージ)
植物の力を経済成長に生かす(画像はイメージ)

   「人工光合成」は、光合成と同様に、太陽光エネルギー、水、水素という無尽蔵な資源から燃料になるメタノールや化学製品の基礎原料となるエチレンなどの多様な物質を生み出す技術。つまり、無尽蔵の太陽エネルギーと地球を温暖化させる悪役のCO2という無尽蔵でコストの掛からない原料から、酸素や有機物を作り出す正に一石二鳥、三鳥の究極のエコサイクルだ。

   光合成の反応の中に、光エネルギーによって水分子を酸素と水素イオン、電子に分解するプロセスがあり、その水素イオン、電子とCO2から糖を合成する。ここでカギを握るのが、この2つの過程の化学反応を促進する「触媒」で、人工光合成技術の開発も、この触媒の開発がポイントになる。

   研究の歴史を振り返ると、大きな一歩が記されたのが1972年に英科学誌「ネイチャー」に発表された本多健一東京大学名誉教授らによるによる論文で、酸化チタンを使って初めて人工的な「光触媒」を行った。これは筆者の名を取って「本田・藤嶋効果」と呼ばれる。さらに2011年4月、「大阪市立大の神谷信夫教授が発表した論文で、世界的に人工光合成の本格的な研究熱に火を付けた。光合成で水を分解する際に触媒として働く「マンガンクラスター」という原子構造を初めて突き止めたことから、これに似た触媒を開発すれば、人工光合成が実現できるという開発への道筋が見えたのだ。

パナソニックとトヨタ自動車グループも取り組む

   こうした流れに弾みをつけたのが、2010年のノーベル化学賞を受賞した根岸英一・米パデュー大学特別教授。2011年1月に、国内の化学研究者ら100人以上を束ねて「人工光合成」の研究を始めると発表、国に働き掛けたこともあり、「国家プロジェクト」として2012年から文部科学、経済産業の両省が連携して10年間で約150億円の予算投入を決定。政府の総合科学技術会議が2013年夏に人工光合成を「環境技術革新計画」の重点研究分野に位置づけ、また、経産省が2014年夏に発表した「エネルギー関係技術開発ロードマップ」(19分野)の中で、人工光合成のみが具体的な実行スケジュールを書かれ、「合成触媒」の開発を先行させて2017年に実証試験を始め、2022年に総合的な人工光合成の実証試験に着手する――とした。

   実際の開発は民間で着実に進んでいる。2011~2012年にかけ、パナソニックとトヨタ自動車グループの「豊田中央研究所」(愛知県)などが、単純な有機化合物のギ酸を作り出すことに成功している。

   最近も技術開発に関するニュースは絶えない。2014年11月21日「日経」は、東芝が人工光合成で世界最高の変換効率1.5%を実現する材料を発見したというニュースを報じた。それによると、半導体と金の触媒を組み合わせ、一酸化炭素を得て、それを処理してメタノールなどを作るといい、この分野の国際学会で発表。さらに、パナソニックも、従来のギ酸と違い、直接燃料に使えるメタンを合成するシステムを開発、窒化ガリウムとシリコン製太陽電池を組み合わせた半導体を使って太陽光を当てて水から電子を生じ、そのエネルギーと銅を使った触媒を使ってCO2からメタノールを合成した(12月6日「日経」)――といった具合だ。これらの動きは、経産省のロードマップの「2022年実証試験本格スタート」という時間軸を意識していると見られる。

「日本は米国と競いながら、間違いなくトップ集団を引っ張っている」

   人工光合成はエタノールなど炭素を含む燃料だけでなく、水から水素も生成する。大きな化学プラントで石油や天然ガスから作っている水素を、もっと簡略な装置で生み出せるようになれば、水素を燃料とする燃料電池車(FCV)の普及促進、また水素発電などを含む「水素社会」への道が大きく開けるという意味でも注目される。

   実用化のポイントになるエネルギーの変換効率は、現状では最高でも、先の東芝が開発したシステムの「1.5%」程度とされる。商業ベースに乗るには、触媒などの材料のコストダウンなどとともに、変換効率を10%程度に高める必要があるとされる。

   エネルギー問題を解決し、地球温暖化も防ぐ人工光合成。「日本は米国と競いながら、間違いなくトップ集団を引っ張って いる」(経産省筋)だけに、実用化に向け、引き続き官民を挙げた取り組みが必要だ。