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金価格が下落、5年半ぶりの安値 いま世界は「有事」ではないのか

   2015年7月以降、世界的に金の価格が低迷している。代表指標であるニューヨーク市場の先物価格は一時、5年半ぶりの安値をつける場面があった。中国経済の減速や米国の利上げもにらみながら上値の重い展開が続きそうだ。

   2008年のリーマン・ショック以降、欧州債務危機などもあって「有事の金」として急上昇し、2011年に過去最高値をつけたことが遠い過去のよう。日本の金取引市場は近年、アベノミクスによる円安・ドル高で円の価値が下がっているため、円ベースの金価格がニューヨーク先物価格ほど下がっていないが、それでも足元では下落基調にある。

  • 金保有者にとっては悩ましい日々が続きそう
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世界的な政治経済情勢を色濃く反映

   リーマン・ショック以前を振り返れば、金価格は20世紀末にかけてほぼ下がり続け、21世紀に入っておおむね上昇基調をたどってきた。そこには世界的な政治経済情勢が色濃く反映されてきた。

   20世紀末の10年と言えば、ソ連が崩壊し冷戦が終了した後の世界。ざっくり言えば、投資家が「有事」と感じる度合いは下がり、金価格も下落基調をたどった。

   21紀に入ってまもなく、ニューヨークで「9・11」同時多発テロが発生。旧社会主義国に代わってイスラム原理主義組織が米国の敵として台頭、米国は今日の「イスラム国」にいたる長い「テロとの戦い」に追い込まれる。ただ、この頃でもニューヨーク金先物価格は1トロイオンス=300ドル前後に過ぎなかった。

   他方、「有事」とは別に、中国、インドなど新興国の経済成長が顕著となった。投資家による値上がり期待の保有だけではなく、実需の拡大も金価格上昇を支えることになり、リーマン・ショック前には1000ドルをうかがう水準にまで上昇した。

   リーマン・ショック後は、「有事」の度合いが高まった。米国発の金融危機が世界経済に打撃を与え、2009年には欧州債務危機が表面化。欧州問題は年を追うごとに深刻化し、2011年夏にはイタリアやスペインなどの先進国の国債ですら信用度が地に落ち、米国債の格下げという事態も起きた。国の発行する債券の信用度が落ちる中、有事の金だけでなく、安全資産とされた日本円やスイスフランが買われ、円相場は1ドル=75円台に突入し、過去最高値を更新した。

   相次ぐ危機を受けてニューヨーク金先物価格は上昇の一途をたどり、2011年9月6日には1トロイオンス=1923ドルと過去最高値をつけた。ただ、2011年の初めに1400ドル近辺だった価格が一気に1900ドルを超えたため、当時でも「2011年の上昇分はバブル」と指摘するアナリストもいた。

中国の景気動向が金価格に影響

   金価格は2012年、1700ドル前後にとどまっていたが、2013年には一時1200ドルを割り込むまでに下落した。背景には、米国の量的金融緩和政策(QE3)の終焉が見えたことがある。当時、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長がQE3の縮小と終了の見通しを示唆し、その後は実際にその通り動いた。米国がリーマン・ショック以来続いた危機を脱する道筋がついたことで、それまでの「ドル売り・金買い」の流れが逆回転を始めたわけだ。

   年を追うごとに顕在化する中国経済の減速懸念も金価格を押し下げる。金の消費需要は年間1000トン近い中国が世界首位で800トン超のインドが2位。3位以下は100トン台に過ぎない。中国の景気動向が金価格に影響を与えないわけがない。

   中国経済の減速は原油など他の商品価格にも影響を及ぼしており、代表的な商品指数であるロイター・コアコモディティCRB指数は、8月に入って200を割り込み、2008年のリーマン・ショック時を下回って12年ぶりの安値圏にある。

   そうした下地があるところに、今年7月の金価格急落の直接の引き金になったのが、「手遅れになるなら年内の利上げ着手が適切」とのイエレンFRB議長の議会証言での発言だ。確定的なことを言ったわけではないが、利上げでドルの金利が上昇するなら、持っていても金利ゼロの金を持つ意味は薄れる。

   7月末にニューヨーク金先物は一時、1トロイオンス=1100ドルを割り込み、5年半ぶりの安値となった。8月に入っても本格反転の兆しは見えない。歩調を合わせるように6月には1グラム=4700円を超える日もあった東京金先物も、7月下旬には4200円台に下落した。金保有者にとっては悩ましい日々が続きそうだ。