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国産ジェットMRJ、初の「リース受注」を大アピール 重なる「開発遅れ」を挽回する切り札になるのか

   国産初のジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」を開発する、三菱重工業の子会社、「三菱航空機」(愛知県豊山町)は2016年2月16日、米国の航空機リース会社「エアロリース」(フロリダ州)に最大20機を納入することで合意したと発表した。

   受注が決まったのは2014年8月の日本航空向け以来1年半ぶりで、2015年11月のMRJの試験初飛行の成功後では初めて。開発スケジュールが遅れるなかで新規受注がしばらく途絶えていたが、リースに活路を見出すことで挽回を図る戦略のようだ。

  • 世界の航空機の約4割はリースという統計もあり、航空機市場での存在感は大きい(画像は、三菱航空機がYouTubeに公開している動画のスクリーンショット)
    世界の航空機の約4割はリースという統計もあり、航空機市場での存在感は大きい(画像は、三菱航空機がYouTubeに公開している動画のスクリーンショット)
  • 世界の航空機の約4割はリースという統計もあり、航空機市場での存在感は大きい(画像は、三菱航空機がYouTubeに公開している動画のスクリーンショット)

航空会社からの新規受注が途絶えていた

   三菱航空機は16年2月中旬にシンガポールで開かれた「シンガポール・エアショー」にMRJを売り込むブースを構えて商談を重ねた。エアロリースへの納入の発表は、そのエアショーの開幕日に、現地で三菱航空機の森本浩通社長が開いた記者会見で行った。どこで発表しても良さそうなものだけに、エアショーでの商談に勢いをつける意味もあったのだろう。実際、エアロリースからの受注が話題となり、エアショーの場で各方面から具体的な問い合わせが多かったという。シンガポール・エアショーは、アジア最大規模の航空機産業の見本市だ。三菱航空機が、成長が見込めるアジア市場を強く意識していることもうかがわせる。

   今回、MRJが受注を獲得したエアロリースは、社名の通りの航空機リース会社だ。三菱航空機はこれまで、初号機を納入するANAホールディングスをはじめ、日本航空や米スカイウェスト、米イースタン航空など、航空会社からキャンセル可能な「オプション」と呼ばれる契約を含めて計407機を受注していたが、リース会社は初めてだ。

   記者会見で森本社長は「リース会社への納入は大きな意味がある。MRJの資産価値が認められた」と強調した。エアロリースには対しては今回合意した20機のうち10機が確定した受注で、残り10機はキャンセル可能なオプション契約。年内にエアロリース向けの生産に着手し、2018年から納入を始める計画だ。

   航空会社が資産として自社に航空機を抱え込むことは、柔軟な路線運営を進める上で必要なことではあるが、投資額が膨らむなど経営上のリスクを伴う。このため、現在の航空機市場ではリースの存在感が大きく、世界で現役の航空機の約4割はリースという統計もある。市場の半分近くを握るリース会社への納入の道を開くのは、三菱航空機にとって欠かせないことだった。特に、受注発表会見で森本社長とともに撮影に応じたエアロリースのジェップ・ソーントン代表は、業界団体のトップを務めたこともあるその世界の有名人。そうした人物からMRJの資産性を認められたことは、今後のリース会社への納入の道を開く一歩とも言える。森本社長自身、「今後はリース業界を攻めていく」と表明した。

優位だった「省エネ性能」も脅かされつつある

   新たな受注は朗報だが、2008年に開発をスタートしたMRJはこの間、部品調達に手間取るなどの「開発遅れ」の問題がつきまとった。成功した初飛行も、当初の予定からは5度の延期、約4年の遅れを経てようやく実現したものだった。

   しかも、初飛行成功の余韻も冷めやらぬなかで、15年12月には、初号機のANAホールディングスへの納入時期を従来の2017年4~6月から1年程度遅らせて2018年半ばへ先送りすると発表した。想定外の不具合に対応しながら、「型式証明」と呼ばれる日米当局の認可を得る手続きに臨むためだ。

   森本社長は16年2月、業界関係者の不安を払拭する意味もあって、シンガポール・エアショーに先立って日本のメディア各社の取材に応じ、型式証明を得るための飛行試験などを前倒しで行うことなどを主張。これと前後して2月10日にはMRJの試験飛行を2か月半ぶりに再開して開発スケジュールの遅れの挽回をアピールした。

   ただ、いみじくも今年のシンガポール・エアショーで、三菱航空機のライバル企業であるエンブラエル(ブラジル)、ボンバルディア(カナダ)の「2強」が性能強化をアピールしたほか、中国企業もMRJのような小型機での受注機会をうかがった。MRJが優位に立つ省エネ性能などはすでに脅かされており、三菱航空機にとって気の抜けない日々が続くことだけは間違いない。