【熊本地震とインターネット(1)】
南阿蘇村「猿まわし劇場」から歓声が消えた 「観客ゼロ」ありのまま伝えるFBに反響

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   熊本地震から1か月がたった。家を失って今も避難所で厳しい生活を強いられている人は少なくない。一方で地震直後から、2011年の東日本大震災で得た教訓を生かした支援活動や情報発信が見られる。そのひとつがインターネットの活用だ。

   情報に簡単にアクセスできない「災害弱者」や、外部に被災地の現状を伝えたい人にとって、ネットは大きな役割を果たしている。J-CASTニュースは熊本各地で、「震災とネット」を主要テーマに取材した。1回目は、甚大な被害を受けた南阿蘇村で奮闘する「阿蘇猿まわし劇場」だ。

  • 元気いっぱいに芸を披露する15歳のサル「くり松」と調教師のかき松さん
    元気いっぱいに芸を披露する15歳のサル「くり松」と調教師のかき松さん
  • 写真中央が園長の村崎英治さん。左がかき松さんと「くり松」、右が調教師のKENさんと「まさる」
    写真中央が園長の村崎英治さん。左がかき松さんと「くり松」、右が調教師のKENさんと「まさる」
  • かき松さんのツッコミに「くり松」がボケる
    かき松さんのツッコミに「くり松」がボケる
  • 地震で天井の一部が落下した劇場(写真提供・阿蘇猿まわし劇場)
    地震で天井の一部が落下した劇場(写真提供・阿蘇猿まわし劇場)
  • 南阿蘇村・阿蘇大橋の崩落現場。熊本市につながる国道57号への道が寸断された
    南阿蘇村・阿蘇大橋の崩落現場。熊本市につながる国道57号への道が寸断された

本震直後に投稿、「いいね」1万1000件

   舞台に登場した「くり松」は、芸歴14年のベテランのサルだ。竹馬や玉乗りをこなし、軽々と宙返りをしてみせる。調教師のかき松さんに抱きついたかと思えば、プイっと横を向く。凸凹コンビのコミカルな掛け合いが楽しい。もう1匹は、若干1歳の「まさる」。元気いっぱいに舞台を駆け回り、小さな体で障害物をジャンプして乗り越えてみせた。

   芸達者なサルたちの動きは、普段なら大勢の観客をわかせるだろう。だが記者が訪れた5月18日は1日1回だけの公演にもかかわらず、観客はたったの2人。収容人数600人の劇場で、あまりに寂しい光景だった。

   阿蘇猿まわし劇場は、2016年4月16日未明の本震で天井の一部がはがれて客席に落下した。スタッフは、おびえた様子のサルたちを「猿舎」からいったんワゴン車に移して、いざとなればすぐに避難できる体制をとった。幸い調教師とサルたちは全員無事で、園内を確認すると物の散乱は見られたが大きな打撃は免れた。

   園長の村崎英治さんをはじめ劇場のスタッフは、本震直後は「早く設備を修復して安全性を確保し、営業を再開させたい」の思いが強かった。だが、次第に誰もが地元・阿蘇を襲った深刻な被災状況を知る。多くの家屋や建物が倒壊し、大規模な土砂崩れが発生。阿蘇大橋は崩落し、現場の映像はテレビで繰り返し流された。

   村崎さんは翌4月17日、劇場の公式フェイスブックにこう投稿した。

「自衛隊をはじめ警察、消防、レスキュー隊、ボランティアや県や村役場、地元の方などの方が現地に来られて助けてくださいます。心より感謝申し上げます。私達猿まわし劇場は、前を向いて明るく舞台復帰を目指します!」

   観客から提供された食料をアスファルトの上に置き、村崎さんと1匹のサルが深々と頭を下げている写真が添えられている。

   地震前のフェイスブックは、サルたちの日常を紹介するほのぼのとした内容で、「いいね」やコメント数は多いとはいえなかった。ところがこの投稿はみるみる拡散。「いいね」などのアクションも1万1000件を超え、コメントは3400件以上が送られてきている。

「不安な時期に暖かい激励が寄せられ、心に深くしみました」(村崎さん)

阿蘇の厳しい現状を多くの人に理解して欲しい

   図らずもフェイスブックのメッセージが大勢に届いたのが、劇場再開に向けたひとつのきっかけになった。その後、マスコミが続々と取材に訪れ、被災した南阿蘇が注目されていると村崎さんは強く感じた。同時に、こうも考えた。

「南阿蘇は農業と観光が主要産業。観光施設の営業ストップが続けば、村全体が危機に陥る。自分たちが先頭に立って、自粛ムードを吹き飛ばそう」

   そこで次のフェイスブックの投稿から、題名に「舞台復帰への道」と付けた。既に大型連休が目の前に迫っていた時期、「ゴールデンウィークには再開しよう。状況は厳しいだろうが、一歩を踏み出すのが大事」との思いを強くした。

   4月26日の投稿では、「4月29日営業再開します!」と宣言。この時もシェア数は540件に達し、「いいね」など「アクション」も2200件近くに上った。以前は「半分趣味で更新していたフェイスブック」(村崎さん)だが、メッセージは確実にファンに広がっていると手ごたえを得た。

   劇場再スタート当日はマスコミの取材が相次ぎ、熊本県内の民放各局で報じられた。しかし、一般の客足は途絶えたままだった。6回公演のうち、1回だけが4人であとは観衆ゼロ。残酷な光景が広がった。震災前に入っていた団体の予約はすべてキャンセルになった。連休期間中の訪問者数は例年の10分の1以下に終わった。5月10日には、当面平日の公演数を6回から1回に、土日祝日は同2回に変更すると発表した。

   あえて「客が来ない」事実をフェイスブックで公表する理由を、村崎さんは「ありのままの情報を出して阿蘇の厳しい現状を多くの人に理解して欲しい」と明かす。注目度の高い今なら、フェイスブックを見てもらえる。そこで、1日も早く観光客でにぎわう日が戻るように「皆さんに来てもらいたい」との願いを込めている。

   今は訪れる人はわずかだが、義援金や、サルへの食べ物をはじめ支援の物資を持ってくる人がいる。中には被災者が癒しを求めて訪れ、「共にがんばりましょう」と励まし合うこともあるそうだ。

   阿蘇大橋の崩落で、熊本市内と阿蘇地域を結ぶ国道57号への道が寸断されており迂回せざるを得ない。村崎さんは、夏休みが始まる7月までにめどが立ってほしいと願う。今は夏の「全面復活」を目指して、新たにデビューさせるサルの訓練に余念がない。同時に、フェイスブックももっと活発に更新させていく予定だ。「ファンの人たちに、私たちのフェイスブックがあること自体知られていませんでした。もっと勉強を重ねて、活用していきたいですね」。

   ネットの拡散力を実感した村崎さんだからこそ、フェイスブックがPRの切り札になり得ると考えているかもしれない。

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