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新潟知事選で「前提崩れた」 東電の「経営再建シナリオ」

   新潟県知事選(2016年10月16日投開票)で、東京電力柏崎刈羽原子力発電所(柏崎市と刈羽村)の再稼働に慎重な米山隆一氏(49)が与党候補を破って初当選し、25日に就任した。同原発の早期再稼働を目指してきた政府と東電には大きな衝撃だ。同じ25日、経済産業省は東電の経営のあり方を検討する「東京電力改革・F1(福島第1原発)問題委員会」(東電委員会)で、東電の原発事業を分社する案を示し、経営効率化に活路を見いだそうと動き始めた。ただ、いずれにせよ、柏崎刈羽原発は東電の経営再建のカギを握るだけに、先行きは一段と不透明になっている。

   同原発の再稼働に慎重だった泉田裕彦・前知事が再選出馬の意向を撤回した8月末には、政府と東電には楽観ムードが広がった。自民・公明の推薦を受け、「反泉田」で出馬表明していた前同県長岡市長で全国市長会会長も務めた森民夫氏(67)の「敵」が消えたからで、不戦勝との見方も出たほど。他方、米山氏は立候補表明が告示直前と出遅れたものの、「泉田路線継承」を掲げ、再稼働問題を争点化したことで情勢を一気に変えることに成功、大逆転劇を演じた。

  • 東京電力の柏崎刈羽原発(写真は2013年3月撮影)
    東京電力の柏崎刈羽原発(写真は2013年3月撮影)
  • 東京電力の柏崎刈羽原発(写真は2013年3月撮影)

米山新知事「現状では再稼働を認められない」

   柏崎刈羽原発は全7基の発電総出力821万キロワットと世界最大規模。福島第1原発事故後の2012年3月に全基が停止してから動いていない。東電は柏崎刈羽6、7号機の再稼働に向けて2013年9月、新規制基準への適合性審査を原子力規制委員会に申請済みで、審査は終盤を迎えている。

   東電は審査終了後、新潟県知事らに再稼働の了解を求めることになる。知事には法的な「決定権」はないが、実質的にその同意なしに再稼働は困難だ。

   泉田氏は福島第1の事故後、東電の隠蔽体質を強く批判し、「福島の総括が先だ」として柏崎刈羽の再稼働に厳しい姿勢を取り続けた。2012年に県技術委員会で独自に福島の事故の検証を開始。東電は県側に対し、福島の事故当時、炉心溶融(メルトダウン)に関して「判断する基準がなかった」と説明してきたが、マニュアルがあったことが判明し、今年8月に泉田知事に謝罪したのは記憶に新しい。

   ただ、泉田氏は原発の再稼働自体は否定していなかった。これに対し米山氏は「現状では再稼働を認められない」と明言しており、政府・東電には状況がより厳しくなったとの評価が一般的だ。

   こうした事情から、選挙結果が出た週明け10月17日の東京株式市場では、東京電力ホールディングス(HD)の株価が急落、終値は前週末の418円から33円安い385円となり、18日以降はやや持ち直しているものの、知事選ショックによる落ち込み分を回復できていない。

   市場が悲観するように、柏崎刈羽は東電の経営の「生命線」といえる。東電HGの2016年3月期決算は原油安による燃料費減で事業活動の儲けを示す経常黒字が前期比56.7%増の3259億円と、大幅増益になったものの、柏崎刈羽6、7号機の再稼働で年間2400億円程度の増益効果を見込んでいるだけに、「再稼働無しの経営再建は難しい」(経済産業省幹部)。再稼働に道筋をつけ、収益回復の見通しを立てて2016年度中に社債市場に復帰し、必要資金を安定的に調達できる体制を築くシナリオを描いていたが、その前提は崩れたといえる。

エネルギーの将来像をいかに示せるか

   東電は実質国有化されたままだ。福島第1の賠償や廃炉の道筋などについて責任を果たせる体制ができてきたと国が判断すれば、2017年4月以降に民間に戻るための手続きに着手するというスケジュールが難しくなった。

   問題は、狭い意味での東電の経営にとどまらない。福島第1の事故処理費用は、政府が9兆円まで交付国債を発行して立て替える仕組み。うち5.4兆円と見込んだ被災者への賠償費用は東電と関西電力や中部電力などほかの電力大手が共同で負担することになっているが、賠償はすでに6兆円を超えており、8兆円規模に膨らむといわれている。除染費用の2.5兆円は国が持つ東電株の売却益を当てる計画だが、この費用も2.5兆円を上回るのが確実。さらに原子炉内の核燃料の取り出しといった廃炉作業は9兆円とは別枠で、年間800億円を東電が自力で負担するとしていたが、経産省は25日の東電委員会で、これが年間数千億円に膨らむとの試算を出したように、どれだけかかるか、正確には誰にもわからないのが実態だ。

   経産省が打ち出した東電の分社案は、最終的に東電の原子力事業を東北電力や日本原子力発電(原電)などと統合することを視野に入れており、安全技術の共有や資材の共同調達などによるコスト削減が期待されるが、大前提は柏崎刈羽の再稼働で、これらによる収益を廃炉費用の原資と見込む。東電への不信感が広範に存在することから、東電と切り離し、原電などの「権威」を借りて信頼を回復することで、柏崎刈羽の再稼働につなげる狙いだ。

   ただ、一緒にされようという東北電力や原電にとって、原子力事業の収益を廃炉費用にもって行かれるのでは、再編のメリットはなく、スンナリ乗れる話ではない。

   柏崎刈羽の再稼働が後ズレするほど、廃炉などの費用にあく穴が広がることになり、不足分は最終的に電気料金への上乗せなどを通じた国民負担にならざるを得ないとの声が政府内から出ている。

   政府は2030年度の原発の発電比率20~22%とするエネルギー政策を堅持するが、新潟県知事選、さらに原発の一時停止を掲げた三反園訓氏が当選した夏の鹿児島県知事選で原発への厳しい世論が改めて示された。東電の経営改革案は年内にもまとまる予定だが、廃炉などの費用だけでなく、温暖化対策や電気料金引き下げ、さらに高速増殖炉「もんじゅ」廃炉なども含め、国民の納得行く費用負担やエネルギーの将来像をいかに示せるか、政府に大きな課題が突きつけられているといえそうだ。