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高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
選挙後のトランプ氏は「別人」 共和党との関係改善は進む

   アメリカでは株価が市場最高値を更新するなど、トランプ当選で不安視されていたのに、逆に株価が上昇している。その理由はなぜだろうか。

   その理由のひとつは、トランプ氏が意外とまともな人であることが分かったからだ。ただし、これは大統領選挙期間中のマスコミの報道が、あまりにバイアスがかかり過ぎていた事にも一因がある。

  • 「別人」に見えるのはマスコミの「報道姿勢」も影響(画像はイメージ)
    「別人」に見えるのはマスコミの「報道姿勢」も影響(画像はイメージ)
  • 「別人」に見えるのはマスコミの「報道姿勢」も影響(画像はイメージ)

議会との「ねじれ」解消

   例えば、トランプ氏は、メキシコとの国境に壁を作るというと、その発言がいかに酷いか、とマスコミは一斉に報じた。しかし、ちょっと考えれば、国境にフェンスがあるのは当然である。

   しかも、国境管理を厳格に行う意味であると理解すれば、それほど過激な発言ではない。移民を入国させないという発言にしても、トランプ氏は「違法な」移民といってきた。オバマ大統領も違法移民に対しては、強制送還の措置をやってきた。ただ、オバマ大統領は、不法移民に対して一時猶予措置を大統領権限で行い、それに対して違憲訴訟も起き最高裁判断によって、オバマ大統領命令は根拠を失い、内政の大きな問題になっている。これに対して、トランプ氏が強制送還支持を主張しているだけだ。

   さらに、筆者が大きいと思う理由は、大統領選と同時に行われた上下両院選挙を共和党が制したことだ。これで、大統領と議会のねじれはなくなった。米大統領は大きな権限を持っていると日本で誤解があるが、実はあまり大きくない。

   例えば、政策の裏付けとなる予算や法案の最終決定権が議会にあるのは、日米共通であるが、日本では議会への予算案提案や法案提出は政府が行う権限があるが、アメリカでは政府にそうした権限がない。政府が持っているのは、議会が作る予算や法律に対して拒否権があるだけだ。要するに、米政府は自らの政策を提案すらできないわけだ。

TPPベースでアメリカとの2国間貿易交渉に臨む状況に

   トランプ氏の積極財政に、財源問題があると指摘されるが、これは議会の共和党次第である。オバマ政権の時には、2014年11月の中間選挙以降、上下院ともに共和党支配であったので、オバマ政権と議会は対立して、重要法案はほとんど成立しなかった。

   大統領選挙期間中、トランプ氏と共和党は対立したために、その対立構造が再燃すると予想する人もいるが、筆者はこの点で大統領選選出後のトランプ氏は別人とみる。

   トランプ氏も議会と協力しないと、政策が通らないのをよく知っている。共和党主流派も、8年間も民主党政権で久々の共和党政権である。トランプ氏を持ち上げて、共和党色を強めたいはずだ。ということは、お互いが協力するのが、ベストな解決策となる。お互いに主張はするが、最後にはお互いに妥協して、物別れとはならないだろう。

   その結果、トランプ氏の政策は100%でないとしても、そこそこ実現するだろう。そこが、オバマ政権と議会共和党時代との決定的な違いである。もしクリントン氏が大統領になったら、上下院の過半数を握る共和党と「ねじれ」が顕在化して、就任早々から「レームダック」状態になった可能性すらあり、これもトランプ大統領でほっとしている理由である。要するに、トランプ氏の政策は、従来の共和党色を加えて、実現すると思われる。

   そうした観点から、話題のTPPをみると、TPPの3要素である(1)自由貿易、(2)中国除き(国有企業改革や知的所有権保護など)、(3)多国間協定、のうち(3)の多国間協定が否定され、あらたな貿易協定に変質する可能性がある。

   日本は、アメリカ以外のTPP国の代表となって、TPPベースでアメリカとの2国間貿易交渉に臨む状況になるだろう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、 いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。 著書に「さらば財務省!」(講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)、 「戦後経済史は嘘ばかり」 (PHP新書) など。