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やっぱり始まったトランプ「日本攻撃」 トヨタは最初の標的に過ぎない

   メキシコに新たな工場の建設を計画していたトヨタ自動車が、米国のドナルド・トランプ次期大統領に「ターゲット」にされた。

   トランプ氏は自国の利益を最大限に追求する、「米国ファースト」を打ち出している。法人税減税や規制緩和、大規模な公共投資で企業活動を活発にすることで雇用を改善、好景気をもたらす。そのためには米国の雇用を奪うメキシコとの国境に「壁」を設け、また海外製品に高い関税をかけるとも公言していた。その矛先が「日本」に向けられたようだ。

  • カローラを生産するメキシコの新工場は2019年に稼働する予定だが・・・
    カローラを生産するメキシコの新工場は2019年に稼働する予定だが・・・
  • カローラを生産するメキシコの新工場は2019年に稼働する予定だが・・・

フォードはメキシコ新工場を撤回

   米国のトランプ次期大統領のターゲットになったのは、まずは自動車産業だった。2017年1月3日、トランプ氏はツイッターで、米自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)が、輸入に関税がかからないメキシコで製造した小型車の「シボレー・クルーズ」をアメリカで販売している、とツイッターで批判。米国内で生産するか、高い関税を支払うよう求めた。

   トランプ氏は「米国の雇用を守る」として、メキシコなどと結んでいる北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを主張しているほか、米国の企業が国外に移転した工場から輸入する製品には、35%の関税をかけると警告している。

   これに対して、GMは「シボレー・クルーズのうち、メキシコで製造しているのは世界の市場に向けたハッチバックのモデルで、米国での販売は少ない」とのコメントを公表。反論している。

   また同様に、トランプ氏がメキシコの新工場建設について批判していた米フォード・モーターは同日、この計画を撤回すると発表。トランプ氏はツイッターで、フォードの決定を歓迎している。

   その「攻撃」の矛先が、今度はトヨタ自動車にも向けられたわけだ。トランプ氏は1月5日(日本時間1月6日)、ツイッターで「トヨタ自動車は米国向け『カローラ』を製造する新工場をメキシコのBaja(バハ)に建設すると言っている。とんでもない! 米国に工場を建設しなければ、重い関税を課す」と警告した。

   トヨタは2015年4月、北米の生産体制の再編を発表。メキシコに年間約20万台の生産能力をもつ新工場を16年11月に着工。19年の稼働を予定しているほか、ピックアップトラック「タコマ」の生産拠点である、既にメキシコのバハカリフォルニア工場では年10万台の生産能力を、17年末から18年にかけて年16万台に増強する計画も進めている。

   トヨタによると、メキシコ工場での生産台数は、2015年に約8万2000台。このうちの95%に当たる7万8000台を米国に輸出しているという。

北米市場はトヨタ車が最も売れている「宝の山」

   トヨタ自動車の豊田章男社長は、米GMやフォードのメキシコ工場をめぐるトランプ氏の発言を受けて、1月5日に開かれた自動車工業団体の賀詞交歓会で、「状況を注視したい」と話し、2019年の稼働を予定している新工場については「もう少し状況がわかってから判断していきたい」と述べるにとどめていた。

   一方、米国トヨタは、トランプ氏のトヨタ批判のツイッターを受け、「トヨタは過去30年間、米国で2500 万台以上のクルマを生産している」と、これまでの良好な関係を強調。「メキシコの工場は米国から移転するものではなく、新たに造るのであって、現在の米国内の生産規模や雇用が減ることはない。トヨタは、米国に10の工場と13万6000人の従業員を抱えていて、さらに米国での投資を進めていき、トランプ新政権と協力していくことを楽しみにしている」とコメントした。

   トヨタにとって、北米市場は大事な「宝の山」。2017年3月期第2四半期(4~9月)連結決算で、トヨタの所在地営業利益をみると、日本の営業利益は4857億円(前年同期比49.4%減)で、全体(1兆1168億円)の43.5%を占めている。一方、北米の営業利益は2968億円。全体の26.6%にあたる。ところが、販売台数をみると、日本の107万8000台に対して、北米はその1.3倍にあたる140万台にのぼる。世界で最も売っている市場なのだ。

   このため、1月6日の東京株式市場でトヨタ株は朝から売られ、一時、前日比219円安の6830円まで急落。終値は119円安の6930円で引けた。

   また、日産自動車やホンダ、マツダなどの自動車株も、軒並み売られた。

NAFTAでメキシコ進出の日本企業が2倍に

   トヨタ以外にも、メキシコには日本から多くの企業が進出している。ここ数年、国内の自動車メーカーは北米市場を強化するうえで、メキシコを重要な拠点に位置付けている。メキシコは賃金が安いことに加えて、北米自由貿易協定(NAFTA)で米国やカナダとの関税が撤廃されているからだ。

   日本貿易振興機構(JETRO)によると、2015年末の時点で自動車部品や鉄鋼、機械関連などの企業の合計で957社が進出。5年前の2011年(464社)と比べて、2倍超に急増したことになる。

   このうち、トヨタのほか、国内の自動車メーカーは日産自動車やホンダ、マツダなども進出。現地の生産台数はそれぞれ、82万台、20万台、18万台(2015年実績、JETROまとめ)となっている。

   米調査会社のオートデータによると、米国の新車販売は2016年の累計販売台数で、前年比0.4%増の1755万351台となり、これまで過去最高だった15年の1747万9469台を上回った。好調に推移しているとはいえ、日本の自動車メーカーにとって、トランプ氏の政策次第では、北米戦略の練り直しを余儀なくされる事態になりかねず、まさに戦々恐々の状態だ。

   トランプ政権は、1月20日にスタートする。