トランプ「若き不動産王」はどう変わったのか 30年前に単独インタビューした植山周一郎氏に聞く

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   ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任し、政権運営が本格スタートした。大統領選挙期間中に見せた、主要メディアをはじめ敵視する相手を容赦なく叩くこわもてぶりは、大統領となってからも相変わらずだ。

   1988年、トランプ氏に直接会ってロングインタビューを実現させた日本人がいる。国際経営コンサルタントで一橋大学非常勤講師の植山周一郎氏(71)だ。「若き不動産王」の姿をじかに知る植山氏は、現在のトランプ大統領をどう見ているのか。

  • 国際コンサルタントとして活躍する植山周一郎氏
    国際コンサルタントとして活躍する植山周一郎氏
  • 1988年、若きトランプ氏(左)にインタビューした際に一緒に写真に納まる(植山氏より写真提供)(c)テレビ東京
    1988年、若きトランプ氏(左)にインタビューした際に一緒に写真に納まる(植山氏より写真提供)(c)テレビ東京
  • トランプ氏とのエピソードなどが書かれた植山氏の近著「予言 ドナルド・トランプ大統領で日米関係はこうなる」
    トランプ氏とのエピソードなどが書かれた植山氏の近著「予言 ドナルド・トランプ大統領で日米関係はこうなる」

自信満々、「気配りの人」でもあった

   ――著書「予言」(SDP刊)の中に、29年前にトランプ氏を初めて訪ねた際のエピソードがあります。直接お会いした当時と今を比べて、どちらが本当の姿だと思いますか。

植山 私が単独インタビューした際も自信満々でしたが、そこにはヒーローのような明るさが漂っていました。日本に対して厳しい意見を持っていましたが、一方で「私は日本人を尊敬している」という気配りもありましたし、インタビューの翌日は偶然彼の誕生日だったことから、誕生パーティーに招待してくれたほどです。

 トランプ氏が大統領選でヒラリー・クリントン候補を破った直後の2016年11月9日(米国時間、以下同)、勝利宣言の中でヒラリー氏を称え、国が分断した傷をいやして団結しなければならないと訴えました。選挙期間中の「暴言王」の姿は影をひそめ、「私が会った時のトランプが戻ってきた」と喜びました。彼は相手によって、話の中身や話し方、表情を意識的に変える「パーソナル・ブランディング」の達人だからです。これで、大統領らしい振る舞いをするようになるだろうと思いました。

 ところが2017年1月11日、当選後初の記者会見でCNNを「偽ニュース」呼ばわりして質問させないなど、ひどい対応をとりました。ああ、「吠えるトランプ」に逆戻りしてしまったとがっかりしたのです。

 そして大統領就任演説の内容といい、就任式の観衆の数を巡ってメディアを攻撃する様子といい、私がインタビューした当時の気配りはどこにもなく、尊大さばかりが目立ちます。

   ――1月20日に行われたトランプ氏の大統領就任演説につき、率直な感想を聞かせてください。

植山 「がっかり」ですね。これまでは、ジョン・F・ケネディ元大統領をはじめ、演説の中には必ず聴衆の心に響く理想が込められていました。ところがトランプ大統領は、「私たちは雇用を取り戻す」といったような、大統領選の期間中に主張していた内容ばかりで新鮮味がなければ、哲学もなかった。耳に残ったのは「Make America great again.(米国を再び偉大にする)」のスローガンだけです。

 演説では、自分を支持した人だけに呼びかけていた印象でした。世界平和や国際協調には言及せず、代わりに「アメリカ・ファースト(米国第一)」を繰り返して、「すべての国には自国の利益を最優先する権利がある」「保護主義こそが偉大な繁栄と強さにつながる」との主張は、大統領の言葉としては考えられません。まるで彼の頭の中には、米国地図しか描かれていないかのようです。

メディアとの「ハネムーン期間」はない

   ――トランプ大統領は、なぜ主要メディアを目の敵にするのでしょうか。

植山 私も、メディアを敵に回すのは決して得策ではないと思います。ひとつ考えられるのは、彼のツイッターが大きな影響力を持っている点です。個人アカウントは2200万人近いフォロワーを持ち、自分の主張したい内容はメディアを通すよりも多くの人に直接届くとトランプ大統領自身が実感しているかもしれません。「世界中の人が自分のツイッターを見てくれる。だったら、マスコミとケンカしたって構わない」と。

 トランプ大統領とメディアの間に、いわゆる「ハネムーン期間」(新政権誕生100日はメディアが厳しい批判を控える慣例)はないでしょう。こうなると、米国のみならず世界各地で反トランプデモが吹き荒れる中、トランプ政権が少しでもつまずけばメディアは辛らつに報じるに違いありません。

   ――「米国第一」を改めて鮮明に打ち出したトランプ大統領に対して、日本はどのように付き合っていけばよいでしょうか。

植山 日米関係のポイントは、安全保障と貿易不均衡問題と考えます。安全保障では例えば、在日米軍駐留経費の日本側負担、いわゆる「思いやり予算」について、米国側は現在の約1900億円から大幅な増額を求めてくると予想されます。「交渉の達人」トランプ大統領の命を受けた相手から、「予算を倍増しろ」とふっかけられるかもしれません。しかし、これが国際ビジネスの場では常とう手段です。日本の政治家は、ひるんだり慌てたりしてはいけません。相手の本音を探り、着地点をみいだすのです。「思いやり予算」を含めた在日米軍関係経費として、日本は毎年約7000億円もの負担をしていることを、堂々と主張することも重要です。

 貿易問題について、トランプ大統領は早速TPP(環太平洋経済連携協定)から離脱する大統領令に署名しました。対日貿易の不均衡では今後、日本に対して米国産の農産物をもっと購入せよと迫ってくると考えられます。のんびりムードは一切なく、ハードな交渉は避けられないでしょう。

日本も試される時が来た

   ――著書「予言」の中で、日本側の交渉役として最適な人物に、ソフトバンクの孫正義社長を挙げていました。その理由は。

植山 トランプ大統領に対抗できる、唯一の日本人だと思います。語学力をはじめグローバル感覚に優れているだけでなく、外国人の懐に飛び込むパーソナリティーを持っています。トランプ氏が大統領選に勝利した直後の2016年11月17日、安倍首相が訪米して会談しましたが、その後1か月もたたない12月6日に孫社長も直接トランプ氏と会って、米国への約5兆円の投資と5万人の雇用を約束しました。この行動力は見事でした。

   ――では、植山さんがトランプ大統領を相手に交渉をするとしたら、どのような姿勢で臨みますか。

植山 1988年に初めて会った際、彼は「How are you?」(元気かい?)と笑顔で気さくに声をかけてくれました。もちろん礼儀はつくしますが、「ドナルド」「シュウ(植山氏の名前)」とお互いがファーストネームで呼び合える、打ち解けた関係づくりが第一です。そして相手の言い分に耳を傾けつつ、自分の主張もきちんと伝える。欧米では、ビジネス交渉ではお互いに激しく議論をたたかわせますが、いったん合意すればケロっとして仲良く握手します。

 交渉という同じ舞台に立つのですから、お互いがひとりの人間として付き合えるかどうか。「また会いたい」と思ってもらえる、人としての魅力を磨くことが重要だと思います。

 トランプ政権の誕生で、日本も試される時が来たと言えるでしょう。例えば、米軍が日本から撤退する可能性すらゼロとは言い切れなくなりました。これまで想定したことのない事態ですが、むしろ私たちにとっては国防について真剣に考える、おそらく初めての機会になるでしょう。ある意味では日本にとっても、米国頼みから一歩抜け出すことを考えるチャンスが巡って来たといえるのではないでしょうか。

 トランプ大統領の本音はどこにあるのか。私自身、近いうちにインタビューを実現しようと現在動いています。

略歴

植山周一郎(うえやま・しゅういちろう)/一橋大卒、米スタンフォード大S.E.P.修了。英国ソニー販売部長、ソニー本社宣伝部次長等を歴任し「ウォークマン」の世界的ブランディングに貢献。1981年に株式会社植山事務所を設立。国際経営コンサルティング、著作、翻訳、講演、テレビ番組の企画、司会などを手掛ける。サッチャー元英国首相の日本代理人を務め、2013年のサッチャー氏の葬儀には、日本の民間人として唯一英国政府から夫妻で招待された。トランプ大統領とは1988年に日本人で初めてロングインタビューを行ったほか、「交渉の達人 トランプ―若きアメリカ不動産王の構想と決断」(ダイヤモンド社)などの翻訳も手がけた。2016年12月「予言 ドナルド・トランプ大統領で日米関係はこうなる」(SDP)を刊行。これまで47冊の著訳書がある。

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