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日米自動車摩擦の悪夢 トランプの「敵意」に安倍政権も戸惑い

   トヨタ自動車をはじめとする日本の自動車業界が、米国のトランプ大統領に翻弄されている。トランプ氏は大統領就任前の2017年1月5日、ツイッターへの投稿でトヨタを名指ししてメキシコ工場新設計画を「ありえない!   高い関税を払え」と批判。トヨタはトランプ氏の動きや狙いを読み切れず、1970年代から1990年代にかけて長期間続いた「日米自動車摩擦」の悪夢がよみがえるかのような状況に陥っている。問題は日米政府間の通商交渉の議題に上る可能性も出ており、容易に解決できるものではなさそうだ。

   トヨタは1月24日、米インディアナ州の自社工場に約6億ドル(約680億円)を投資し、年間生産能力を4万台分増やして雇用者も400人増やすと発表した。インディアナの工場では、米国で人気の高い大型の多目的スポーツ車(SUV)「ハイランダー」などを生産しており、ハイランダーを増産すると見られている。増産自体は従来から検討していたことで、トヨタとしては米国の経済、雇用に貢献していることをアピールする狙いがあった。

  • トヨタのHPより
    トヨタのHPより
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トヨタ、米国投資案を公表

   トヨタはこれに先立つ1月9日、4日前のトランプ氏の批判ツイートに答えるような格好となる動きに出ていた。単なる愛国者のたわ言ではなく、最高権力者(この時は「次期大統領」)の発言だけに、日米摩擦に発展しかねないから当然だ。北米国際自動車ショー(米デトロイト)の新型車発表の場で、豊田章男社長自らが「今後5年で100億ドル(約1.1兆円)の米国投資案」を公表したのだった。トランプ氏が問題視したメキシコ工場新設計画は変更しないものの、米国への投資が巨額に及ぶことを訴えて理解を求めた。24日のインディアナ州の自社工場への追加投資公表はその具体策と言える。

   しかし、トランプ氏はそんなトヨタのアピールを黙殺し続けている。それどころか、大統領就任直後の23日には突然、日米の自動車貿易について「不公平だ」と言い出した。一方で、自身の希望通りにあっさりとメキシコ工場新設計画を撤回した米フォード・モーターには、早々に「サンキュー」とツイートしている。

   トランプ氏の日本の自動車業界に対する敵意は、選挙対策のポーズとばかり言っていられないことが日を追うにつれて明らかになっており、戸惑いは日本政府内にも広がっている。1月28日の電話による日米首脳会談では、安倍晋三首相が日本の自動車業界がいかに米国経済に貢献しているかについてトランプ氏に説明し理解を求めるという異例の展開になった。

進む「日系メーカーの米現地生産」

   トランプ氏は公約通りに大統領就任早々、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を表明。今後、日本に対してはTPPに代わる日米2国の通商交渉を始めることを迫ってくるとみられている。日本政府としてはあくまでTPPの意義を主張してトランプ氏に「復帰」を促したい考えだが、TPP離脱を掲げて当選した大統領に対していつまでもそんなことを言っていられないのも現実だ。電話会談では、2月10日の日米首脳会談に向けて、まずはトランプ氏の「不公平」との主張に首相が「抵抗」したと言える。政府は現在のTPP対策本部を改組し、日米2国間交渉も視野に入れた交渉通商交渉全般を統括する組織を設ける。

   ただ、日米の自動車貿易はかつての摩擦時代とは様変わりしており、日系メーカーの米現地生産が進んでいる。米国で販売する自動車を米国で生産する比率はトヨタが7割、日産自動車は8割、ホンダにいたっては9割に及ぶ。一方で、米メーカーの自動車に対する日本の関税はゼロなのに対し、逆の日→米は2.5%の関税がかかる。トランプ氏は規制など非関税障壁が日本側にあると主張する見込みだが、「アメ車が日本で一部の好事家にしか売れないのはドイツメーカーのように右ハンドル車を作るなどの売る努力をしないため」というのが日本の自動車業界の常識だ。

   とはいえ、米国市場が「ドル箱」である以上、トヨタとしてはトランプ体制のもとで新たなロビー活動を展開せねばならない。目をつけているのはペンス副大統領だ。実際、新投資を発表したインディアナ州はペンス氏が直前まで知事だった地元。トヨタとも以前からつながりがあり、豊田社長はデトロイト自動車ショーに参加した際にワシントンに立ち寄ってペンス氏と会談した。ただ、この「ペンス詣で」も今のところ目立った成果はあがっておらず、トランプ氏への対応に官民で頭を悩ませる日々が続きそうだ。