2024年 4月 24日 (水)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち ドナルドは誰の大統領なのか(後編)

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   「プレジデンツ・デー」に、反トランプ派の集会(2017年2月20日)で、堂々と渡り合っていたトランプ派の女子高校生を、テレビ局の女性記者がインタビューしに来た。

   「トランプは自分たちの大統領ではないという人たちがいますが、それについてどう思いますか」と記者が質問する。

「トランプは私たちみんなの大統領です。トランプ氏自身が就任式で、そう言いました」
  • 愛国歌「アメリカ・ザ・ビューティフル」を歌う人たち。大勢の反トランプ派に交じり、
左後方に「BUILD THE WALL」のボードを持ったトランプ派も見える。
    愛国歌「アメリカ・ザ・ビューティフル」を歌う人たち。大勢の反トランプ派に交じり、 左後方に「BUILD THE WALL」のボードを持ったトランプ派も見える。
  • 愛国歌「アメリカ・ザ・ビューティフル」を歌う人たち。大勢の反トランプ派に交じり、
左後方に「BUILD THE WALL」のボードを持ったトランプ派も見える。

分裂を引き起こしたのは、トランプ氏ではない

   記者は「本当にみんなの大統領だと思っているのですか。トランプ氏が人々の対立を深めることばかり言っているとは、思わないのですか」と聞く。

   高校生は「アメリカはこんなに分裂してしまいました。あと一歩で内乱が起きます。でも、分裂を引き起こしたのは、トランプ氏ではありません」と応じた。

   怒号が飛び交うなか、すぐそばで数人の青年たちが、静かにたたずんでいる。手には、「62%のアメリカ人がイスラム教徒に会ったことがない。僕はイスラム教徒です。何でも聞いてください」などと書かれたサインを持っている。

   彼らに「あなたの大統領は誰?」と私が尋ねると、穏やかに答えた。

「イスラム教徒として僕たちは、この国に忠誠心があります。民主主義国家で選ばれた大統領ですから、トランプ氏を支持します。僕が支持しないのは、彼の政策です」

   向こうで、反トランプ派が声を揃えて叫んでいる。

「We need a leader! Not a creepy tweeter!(我々に必要なのはリーダーだ!   クリーピー(身の毛のよだつよう)なツイーターじゃない!)」
「No Trump! No KKK! No Fascist USA!(ノー   トランプ!   ノー   クラックス・クラン(白人至上主義団体)!   ノー   ファシストUSA!)」

愛国歌が流れ、罵声が消えた

と、どこからともなく楽器を手に人々が現れ、米国の愛国歌「アメリカ・ザ・ビューティフル」を演奏し出した。みるみるうちに広場を人々が埋め尽くし、声を合わせて穏やかに歌い始めた。

   罵声は消えた。ともに静かに歌う姿は、感動的だった。音楽は人の心をひとつにする。私は胸を揺さぶられ、思わず、辺りを見渡した。反トランプ派も一緒に歌っているのだろうか。

   そこには「No!」と書かれたプラカードが林立し、反トランプ派の姿ばかりのように見えた。が、たった一人、後ろのほうで、「壁を作れ!」と書かれたサインを手にしている男性がいた。彼が歌っているか、私のいる場所からはわからなかった。

   目の前の人が演奏していたスーザフォーン(大きな金管楽器)の朝顔型の開口部には、THE 3 MILLION MAJORITY MARCHING BAND(得票差300万のマーチングバンド)と書かれたカードが、貼られていた。

   大統領選でクリントン氏がトランプ氏を上回った得票数だ。

   皆が歌い終わると、隣に立っていた反トランプ派の男性が、私に言った。

「Beautiful, right?(素晴らしいね?)」

   その後、セントラルパーク沿いのデモ行進に参加するために、人々が移動し始めた。

   途中、道端で、トランプ派の青年と反トランプ派の中年女性が、意見を交わしている場面に出くわした。

「ヒラリーはウォールストリートと、癒着していたじゃないか」
「じゃあ、ヒラリーと癒着していたゴールドマンサックスの出身者で、トランプ政権が固められて、あなたはハッピーだってことなのね? ヒラリーのウォールストリートとの癒着を激しく批判するのに、トランプなら目をつぶるわけ? 論理がおかしいのが、わからない?」
「ヒラリーはトランプと違って、莫大な選挙資金を受け取っただろ」
「もうひとつ、聞きたいんだけど、報道の自由といい、宗教の自由といい、アメリカを偉大に、と言いながら、アメリカを偉大にしてきたものを、トランプはことごとく踏みにじっていると思わないの?」
「そもそも、メインストリームのメディアは、人々の敵だからさ」

   別のトランプ派の青年が、間を取り持つ。

「アメリカの素晴らしいところは、意見が違ってもこうして自由に対話できることだな」

「そうだ、その点については、同意するね」と先ほどのトランプ派の青年が言う。

すると、反トランプ派の女性が、「そうね。勇気を持って、私たちと話してくれてありがとう。素晴らしいことだわ」とにこやかに答え、彼らと別れた。

   その女性は彼に背を向けると、私の耳元でささやいた。

「あの人と話してみたけど、もう十分。時間の無駄だったわ。だって、彼、どうしようもないやつ(idiot)だもの」

(随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社 のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓 を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1 弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法 の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育 事情」(ともに岩波新書)などがある。


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