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日本も直撃? NAFTA再交渉の懸念材料

   米国、カナダ、メキシコの、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉が2017年8月から始まった。年内決着を目指すが、貿易赤字の削減にこだわる米国と、これに反発するカナダ・メキシコの隔たりは大きく、交渉は最後までもつれそうだ。進出した日本企業の活動にも大きな影響があるだけに、日本も他人ごとではいられない。

   「包括的な再交渉のプロセスを加速することで合意した」。8月16~20日に米ワシントンで開いた見直しの第1回会合の共同声明は抽象的な表現にとどまった。9月1日にはメキシコで再開、同下旬のカナダ、10月の米国という順で交渉を続ける見通しだ。2018年夏のメキシコ大統領選、秋の米中間選挙が近付くと政治的な妥協が難しくなることから、交渉は短期決戦志向にならざるを得ず、年内決着が目標になる。

  • NAFTAの行方はどうなる(画像はイメージ)
    NAFTAの行方はどうなる(画像はイメージ)
  • NAFTAの行方はどうなる(画像はイメージ)

最大の焦点は「原産地規制」

   ただ、各国の利害調整は容易ではない。最大の焦点が「原産地規制」だ。域内の部品をどのぐらい使えば関税免除の対象にするかを決めるもの。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は「より多くのNAFTA製品や、相当な米国製品を使うことを義務づけるべきだ」と述べており、米国製の割合だけを引き上げることを示唆したと受け止められている。これに対してカナダのフリーランド外相は、「サプライチェーン(供給網)を混乱させないよう、見直しは相当な注意が必要だ。特定の国の部品だけの割合を検討するのは好ましくない」、メキシコのグアハルド経済相は「米国やメキシコの工場は共に、中国からの輸入品と競合している」と、それぞれ米国に反論している。

   特に問題になるのが自動車だ。乗用車の場合、域内の部品調達比率が62.5%を超えれば、最終製品にかかる関税がゼロになる。米国はこの比率を引き上げ、米国産部品の調達が増えるよう見直したい。米国が特に目の敵にするのがメキシコで、安い人件費目当てに部品工場が逃げ出したという「恨み」があるのだ。

   ただ、原産地規制見直しの行方によっては、グローバル企業はサプライチェーンの再構築を迫られるだけに、ことは3国だけの問題では済まない。

   他国の通貨安誘導を封じる「為替条項」の導入も火種だ。ライトハイザー氏はカナダ・ドル、メキシコ・ペソの下落が米国の輸入増につながることを警戒。他国の通貨安誘導を防止する条項を求めた。これに対してカナダ、メキシコは、通貨政策の手足を縛られるのを嫌い、難色を示している。

どうなる「為替条項」

   こうした米国主導の見直しに、日本は警戒を強めている。中でも打撃を受けそうなのが、メキシコで展開する自動車メーカーだ。メキシコ中部グアナファト州で2014年にホンダとマツダの工場が稼働。同国での生産台数はホンダ20万台、マツダ18万台(2015年)。半世紀前に進出した日産の生産台数は82万台に達し、中部のアグアスカリエンテス州を中心に事業を拡大中で、高級車を生産する独ダイムラーとの合弁工場を建設中。トヨタ自動車もグアナファト州で生産を始める計画だ。

   日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、メキシコ進出企業はこの4年で倍増、メキシコの政府系投資促進機関、プロメヒコは1月、日本企業のメキシコへの進出が1000社になったと発表した。NAFTA再交渉は、こうした動きに水を差す懸念があり、安倍政権も「自動車メーカーなど数多くの日本企業がメキシコやカナダに進出し、NAFTAを活用している」(世耕弘成・経済産業相=8月15日の記者会見)と、交渉の行方を注視している。

   為替条項も日本にとって懸念材料だ。米国は、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉でも為替条項の導入を主張したが、相場急変動時の為替介入などが制限されかねないことから、日本などが強く反対して見送られた。

   TPPを離脱したいま、米トランプ政権は個別に各国と自由貿易協定(FTA)を結ぶ方向を模索している。NAFTA再交渉は、その試金石と位置づけられており、日本とのFTA交渉ということになれば、米国が為替条項の新設を迫ってくる可能性がある。実際、トランプ大統領は1月末、「中国と日本は何年も通貨安誘導を繰り広げている」と言及したことがある。通商政策と為替をリンクさせる考えは、政権発足当初から、ということになる。

   北朝鮮情勢の緊迫化などで対米協調が必要なだけに、通商問題でどのように米国と対峙していくかは、日本にとって難しい課題。NAFTAの行方から、いよいよ目が離せない。