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トランプ大統領が目論む 「輸入制限」を道具にして...

   トランプ米大統領の『暴走』が止まらない。安全保障を理由に、鉄鋼とアルミニウム製品の輸入にそれぞれ25%、10%の追加関税を課すという36年ぶりの異例の措置で、トランプ米大統領は2018年3月8日(現地時間、以下同)に月内の発動を命じる文書に署名した。当初の「対象国に例外なし」の方針を転換し、カナダ、メキシコを対象から除外するなど、「同盟国」は適用免除の余地は残されているが、米国の一方的な措置に、中国や欧州からは報復関税の声がでるなど、貿易戦争勃発の気配さえ漂う。

   トランプ大統領は3月1日、両製品の輸入増加が安全保障を脅かしているとして関税引き上げ、輸入を制限すると表明した。中国等が不当に安い製品を輸出することで米国内の産業が打撃を受け、国内供給力が落ち、兵器製造や防衛技術の維持が難しくなる――というのが、今回の輸入制限の理屈だ

  • 鉄鋼などに関税をかけるとしたトランプ大統領((C)FAMOUS)
    鉄鋼などに関税をかけるとしたトランプ大統領((C)FAMOUS)
  • 鉄鋼などに関税をかけるとしたトランプ大統領((C)FAMOUS)

政権内でも異論

   中国などの不当廉売(ダンピング)に対し、アンチダンピング課税することは世界貿易機関(WTO)でも認められた措置で、一定の要件に沿って判断し、これまでも実行されてきている。

   今回は米通商拡大法232条に基づく米独自の措置ということが大きなポイントだ。安保上の理由とはいえ、恣意的な適用の懸念が強く、国際協調を無視した「米国第一」の措置と言える。

   鉄鋼産業の衰退は、米国の製造業凋落の象徴。今秋の中間選挙をにらみ、トランプ氏を大統領に押し上げた「ラストベルト」(錆びた工業地帯)の白人労働者の歓心を買い、選挙戦を有利に運びたいとの思惑が見え見えだ。

   輸入制限は鉄鋼やアルミを過剰に生産し、安値で輸出する中国が主な標的だ。それが、中国以外にも幅広く適用するとしたのは、中国から米国への直接の輸出は多くなくても、中国製が他国を経由して大量に流入しているとみられるからだ。

   しかし、大統領の方針には米国内でも、鉄鋼やアルミを原材料として使う米国メーカーなどが強く反発している。米製造業の生産コストを引き上げ、消費者への価格転嫁などを通じて米国経済にも打撃を与えるからだ。上院で通商政策を所管する財政委員会のハッチ委員長は、製品の値上がりを通じ「米国の産業や労働者、消費者に害を与える」と見直しを求めている。

   こうした中で、米政権の経済司令塔「国家経済会議」(NEC)のコーン委員長は、トランプ大統領の高関税を思いとどまるよう説得したがかなわず、6日に辞任が発表された。伝統的に自由貿易を重視してきた与党・共和党主流派には反対論が強い。特に、世界中に適用するとの強硬方針については、ライアン下院議長は6日、「貿易戦争といった事態を憂慮している」と反対を表明、中国を中心に「標的を絞ることが賢明」と訴えている。

日本の対応

   トランプ大統領が一部の国を対象から外すことにしたのは、こうした国内の反対を受けてのことかは不明だが、個別の通商交渉の道具としても、この高関税を使う意図は明白だ。

   まず対象から外したカナダとメキシコについてトランプ大統領は、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉次第だと主張し、こう着する同協定見直しで両国に譲歩を求める姿勢を鮮明にしている。

   その他の国・地域はどうか。鉄鋼製品などの過剰生産で今回の事態の『元凶』といえる中国が対象から外れることは考えられず、中国商務省はこの日、トランプ大統領の署名を受け、「多角的貿易体制を破壊し、国際貿易秩序にひどい損害を与えるものであり、中国は断固として反対する」と、強く反発するコメントを発表。「みずからの正当な権益をあくまでも守り抜く」として報復措置も検討する考えを改めて示した。

   同盟国などへの適用除外は、申請があれば、米国の安全保障や経済的利益に照らして審査し、判断するとしている。世耕弘成経済産業相は9日の閣議後会見で、「極めて遺憾」としつつ、「(日本の)対象除外について米国に働きかけたい」と米国に除外を要請する考えを表明。10日にベルギー・ブリュッセルで米国のライトハイザー通商代表と会談することを明らかにし、この場でさっそく働きかける方針だ。

   欧州連合(EU)は中国と同様、報復関税を含む対抗措置も辞さない考えを表明してきているが、対象除外についての米国との協議に向うかどうかは不透明だ。

   米国との交渉になる場合の条件などは現時点で明らかになっていないが、米国側は貿易赤字の削減策や米国に有利な通商協定などを絡めて「ディール(取引)」を迫るとみられる。それは、各国が結束して米国に対抗することにならないよう、『分断』を図る意味もある。

   今回の高関税を課す政策が、自由貿易を基本にWTOを中心とした国際貿易の大きな枠組みをぶち壊しかねないと、多くの国が懸念している。