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中国人が直面する「交配」と「納税」義務  猫の目「出産政策」の重圧

   現在、中国人に生活の重圧を感じさせる要素は、住宅、教育と医療である。とくに、結婚する子供のために住宅を用意しなければならず、子供の数が一人か二人によって家庭の感じる重圧感も違ってくる。

   中国は2016年から全面的に「二人っ子政策(各夫婦が子どもを二人まで持つことができる)」を実施。従来の「一人っ子政策」を撤廃するという劇的な転換に踏み切ったとはいえ、この2年間の出生人口は想定よりずっと低いものだった。その背後には、中国人の子育てにおける苦痛指数が世界で最も高いという要因がある。

  • 中国には、多くの人口関連の研究機関、行政機関があるが、人口の劇的減少を予測したところはない
    中国には、多くの人口関連の研究機関、行政機関があるが、人口の劇的減少を予測したところはない
  • 中国には、多くの人口関連の研究機関、行政機関があるが、人口の劇的減少を予測したところはない

中国人の子作りの過度に高い苦痛指数

   まず、中国では所得に占める住宅価格の割合が世界でもトップクラスであるということがある。高い住宅価格は、都市部に暮らしている夫婦の「出産」意欲をひどく抑圧してしまう。

   二つ目に、所得に対する中国の子育てコストも世界で最も高い。典型的な中産階級家庭で一人の子育てにかかる費用は、毎年平均3万元、出産から18歳までにかかる費用は50万元以上になり、先進国で子どもを一人育てる費用に匹敵する。一方、ホワイトカラーの給料は先進国の3分の1にも満たない。

   三つ目に、養育面でさらに深刻な困難に直面する。子供が2、3歳になる前には働かなければならない親たちにとって、目の前に置かれている選択肢はたったの二つしかない。一つは、長時間ベビーシッターを雇うというもので、もう一つは、家で祖父母(夫婦の親)に孫を見てもらうというものだ。この数年で、家政婦の給料が高騰し、香港のフィリピン人メイドの給料と変わらなくなってきている。

   四つ目に、女性の社会進出の比率が世界の大多数の国々を上回っている中国の女性は、子どもを作る機会費用(オポチュニティー・コスト)も非常に高い。

GDPの2%~5%が出産・子育て必要

   中国の著名な起業家の梁建章氏によると、各国が子育て家庭に対する財政補助金のGDPに占める割合は、その国の出産率と正の相関関係にある。つまり、補助金が多額であればあるほど出産率を上昇させられるのだ。他の国家の経験を参考に、梁建章氏は、中国では少なくともGDPの2%から5%の妊活、出産、育児の報奨を必要とし、それではじめて出産率を比較的に良い水準に引き上げることができる、と見ている。

   中国の現在のGDPは80兆元であるから、その5%となると4兆元となり、一見、非常に大きな数字だ。しかし、中国には2億人以上の子どもがいて、これに均等に割り当てれば、一人当たり毎年わずか1万元(約16万円)ほどとなり、中国の大都市で子どもを育てるコストはこの金額よりずっと高い。

   現在、中国は他国よりさらに深刻な少子化危機に直面しており、このチャンスを逃したら、中国の将来的な人口の衰退を挽回する機会はどんどん難しくなってゆく。長期的に見て、極めて低い出産率は中国の今後数十年から百年間にある最大の危機だ。それゆえ、速やかに出産奨励政策を打ち出し、大々的に展開する必要がある、と梁建章氏は警鐘を鳴らしている。

「生育基金」という新しい税目

   2018年の年初に、国家衛生健康委員会が専門家を組織して、出産に対する報奨の可能性について研究し、子どもの人数によって異なる報奨を与えることが、「出産」の活性化に及ぼす様々な効果について予測を行った。

   出産制限政策をきわめて厳しく執行してきた遼寧省は、『遼寧省人口発展計画(2016?2030年)』を7月9日に公表し、遼寧省の総出産率を2015年の0.9から2030年の1.8まで上昇させ、2人の子供を育てる家庭に報奨を与えることを目標にしている。だが、ネット世論を見ても、遼寧省の計画が実現できると賛同する人は皆無に近い。

   8月14日に江蘇省の共産党機関紙「新華日報」に某大学教師からの投稿が掲載された。「出生率を上げる 新時代の中国人口発展の新たな任務」との題で、2人以上の出生を促す「生育基金」の設立を提案した。

   40歳以下の男女の給料から一定割合を毎年徴収して積み立て、2人目以上を産んだ家庭に子育て補助として支給。2人目を産まなかった人は、退職後に積立金として受け取れるとした。

   ネットではすぐ「未来、人民が交配と交税(納税)の責務を負う」という皮肉った記事が発信され、数億の人が読んでいるといわれる。

   中国では、人口政策について批判ができないなかで、その政策自体が激動している。ここに市民は新たな重圧を感じている。

(在北京ジャーナリスト 陳言)