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原発「4社提携」は同床異夢? 「認識の一致」と「思惑の違い」

   東京電力ホールディングスと中部電力、日立製作所、東芝の4社が、原子力事業の提携に向けた協議に動き出す。2018年8月21日、提携に関する覚書を結び、原発事業の効率化策などを探ることになる。11年3月の東電福島第1原発事故後、安全対策費がかさみ、人材確保難を含め単独で事業を続けるのが難しくなったことが背景にある。今後の協議の進展により、他の電力会社やメーカーを巻き込んだ国内の原子力産業の再編が進むきっかけになる可能性がある。

   4社が手を組もうというのには、それなりの必然性がある。4社が建設・運営する原発が、いずれも、福島第1と同じ沸騰水型(BWR)ということだ。関西電力や三菱重工業などの加圧水型(PWR)は9基が再稼働しているが、BWRはまだ1基も動いていない。このため、「1社では原発事業を継続できない」という危機感で、4社の認識は一致しているというわけだ。

  • 電力会社と原発メーカー、それぞれの思惑とは(画像はイメージ)
    電力会社と原発メーカー、それぞれの思惑とは(画像はイメージ)
  • 電力会社と原発メーカー、それぞれの思惑とは(画像はイメージ)

原発事業の効率化は待ったなし

   4社にはそれぞれの事情がある。東電と中部電は2015年に火力燃料調達などを共同で行う合弁会社「JERA」を設立し、今後は国内火力発電事業を統合する計画だ。この延長上で原発でも協力していこうということだ。再稼働のための安全対策費は膨張するが、両社とも再稼働を見通せず、その間も設備の維持・管理や技術者の確保など費用は垂れ流しだ。原発事業の効率化は待ったなしの課題になっている。

   他方、原発メーカーである日立と東芝も、福島第1の事故後は国内原発の新規建設がストップしたままで、事業継続に黄色信号がともっている。日立は英国で原発新設計画を進めているが、総事業費が見込みより膨らんでリスクも大きくなり、継続できるかは政府の支援を含め、見通しは立たない状況。東芝は米原発事業の破たんで本体が経営危機に陥ったため、海外の原発事業からは撤退し、国内は既存の原発のオペレーションから廃炉まで、事業継続する方針。日立、東芝とも人材確保も含めた効率的な運営が欠かせない。

   だが、4社の思惑の違いもある。東電は経営再建計画で原子力事業の再編を掲げており、今回の提携をその足がかりにしたい考えだろう。一方の中部電は唯一の原発である浜岡原発の再稼働の見通しが立たないため、東電などとの連携で維持費用を減らしたり、投資を合理化したりして負担を軽減できる効率化を目指すが、福島事故の処理のため、今後約16兆円を負担することになっている東電と丸ごと組むには及び腰だ。

   日立は、英国の原発事業について、東電や中部電の出資を期待し、今回の提携をその呼び水にしたいとの思惑が指摘されるが、両電力は慎重。東芝も、海外での原発事業から撤退した身で、英事業に参画するのは筋が通らない。

政府の期待感

   こうしたそれぞれの事情から、今のところ4社の協力としては、東電の東通原発(青森県)の建設再開や廃炉作業の共同化、原発の保守管理を担う新会社の設立などのアイデアが囁かれる程度。それとて、実際に動く見通しは、にわかには立ちそうもない。

   それでも、今回の提携協議は、国内の原発事業の大再編の引き金になるかもしれない。東電、中部電のBWRと対抗するPWRは関西電力、九州電力などが採用し、原子炉メーカーでは三菱重工業が手がけている。このPWR陣営にも連携の機運が高まることを経済産業省などは期待している。

   今回の提携協議を受け、9月2日時点で、大手紙では読売だけが社説で取り上げている。読売と言えば、原子力推進を社是とし、政府の方針を支持する以上に、原発再稼働などで「発破をかける」論調だ。今回も、「原発を巡る事業環境は厳しさを増すばかりだ。各社単独では原発事業の将来展望が開けないとの危機感から、4社が提携を目指すことは理解できる。......大手電力と原子炉メーカーの技術陣が結集し、技術水準の維持・向上や、必要な人材の確保に取り組む意義は小さくない」と評価。さらに、「原発の建設技術と運営ノウハウをセットで海外に売り込める」と、輸出推進への期待も謳う。

   読売の書きぶりからは、今回の提携協議に関しての政府の期待感の強さが読み取れる。